いつも、雨
「また、いらしてください。あんな社長を見ることなかったので、楽しそうで新鮮でした。……そうだ。サイクルマシンを買い換えますけど、お勧めのメーカーとかありますか?」


泉は、義人のなかに要人と同じ喰えない部分を見て、にやりと笑った。


「ふぅん。自分、おもろいやん。……マシンなあ……俺らは、ローラーっちゅう台を置いて、その上でレーサーに乗るねんわ。それやったらなんぼもがいても壊れへんしな。……いや、俺のためにローラー買う必要、ないで。京都に来る回数減るし。……女と別れたんや。」

……百合子と別れたということか?

「そうですか。……まあでも、社長に会いに来てあげてください。我が家はいつでも大歓迎ですから。」

「ええけど……。なあ?会社以外では、社長やなくて、お父さんとか呼んでやったら?……あんまり気分ええもんちゃうで。」


まさか泉にそんなことを注意されるとは思ってもみなかった。


目をぱちくりさせて、それから義人はばつが悪そうに、うなずいた。

「……そうですか。……そうですね。何となく、意地を張ってたのが、癖になってました。……ありがとうございます。気をつけます。」


素直にそう言った義人に、泉は満足そうにうなずいた。

「やっぱり、出来杉くんやな。自分、ええ奴やな。……由未と百合子の、兄貴やんなあ?……こんな出来杉くんが兄貴て、ブラコン一直線やろなあ。」


百合子のみならず、由未の名前も出ると思わず、義人は言葉を選んで尋ねた。

「……妹たちも、ご存じなのですか?」

「知ってるで。由未とはいっぺんしか逢うてへんけど。」


……百合子とは、何度も逢っていたというわけだ……。

まあ、別れたなら、目くじら立てる必要もないか。


「そうでしたか。ご縁がありますね。2人とも、僕なんか足元にも及ばない立派なひとと結婚して、幸せそうですよ。」



ふんと、泉が鼻で笑った。


「それはそうと、自分、会社継がへんの?なんで?他人に取られて、かまへんの?」


面と向かって聞きにくいことをずけずけと聞いてくる泉に、義人は苦笑した。


なるほど、社長……いや、お父さんの、好きそうな御仁だ。


「他人と言っても、娘と、その配偶者ですし……彼は友人の息子なので、身内感覚です。むしろ、背負わせてしまって悪いなと思ってます。……正直なところ、僕は父の期待に応える自信がないので。父の目標は会社を大きくする事でしたが、僕には、今の会社をそのままの規模で存続させることもできないでしょう。」
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