いつも、雨
「もう!そういう問題じゃないでしょ!孝義くん、今は立派な中年だからね!しかも、猊下なのよ!宗教家なの!……孝義くんがどれだけいいひとでも、娘が幸せになれると思えない……。」


涙をにじませた希和子を、義人は優しく抱きしめた。


「……似たようなことを、お母さんがゆーてたわ。希和を寺に嫁がせるんは、いらん苦労させてしまうから、かわいそう、て。」

「お義母さん……。」

ポロポロと、希和子の瞳から涙がこぼれ落ちた。


養女に引き取られる前から、惜しみない愛情を注いで育ててくれた姑の佐那子は、希和子にとって聖母マリアのような存在だった。


「でもな、たまに思うんや。希和は、やっぱり、あの寺に必要な存在やったんちゃうか、て。ほんまは孝義くんと一緒になることが自然やったのに、俺が無理やり引き裂いてしもたんちゃうか、て。」

「……酷い。私と結婚したこと、後悔してるんや……。」


恨めしげな声に、義人は慌てて否定した。


「ちゃうちゃう。そうじゃなくって!……わかってるやろ?俺には希和が必要やったし、希和を幸せにしたいって気持ちは変わらへん。……でも、希和は、寺をほっとけへんし、孝義くんも、せっかく迎えた奥さん亡くして、大変そうやん?最初から希和が相手やったら、違う運命やったんかなあ、って。」

「……そう言えば、昔、孝義くんに言われたわ。いつか私の子孫をお寺に迎えたい、って。……てっきり、お互いの子供同士とか、孫同士を結婚させたいって意味だと思ってたんだけど……孝義くんとまいらって組み合わせも、有りなのかしら。」


ぶぶっ……と、義人は笑いをこらえようとして、失敗した。


もちろん孝義は、自身が希和子の娘と結婚するなどとは思いも寄らなかっただろう。

しかし、この状況……なきにしもあらず、だな。


「いいやん。決めた。俺、まいらを応援しようっと。」

義人は、完全におもしろがっていた。


「もう。娘のことなのに。他人事みたいに。」


希和子に怒られて、義人は肩をすくめた。


「全然他人事なんて思ってないけどな。これでも、愛娘の幸せを願ってるで。」



実際、義人は孝義という男を高く評価している。


孝義と一緒になっていたら、希和子はもっと幸せになれていたのではないか……。

打ち消しても打ち消しても、その想いは消えなかった。

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