いつも、雨
父の要人の会社にしても、同じことだ。

自分よりもっと相応しい人物に後を継いでもらったほうが、父にとっても社員にとっても喜ばしい結果になるだろう。

決して自分が無能だとは思わないが、義人の自己評価はすこぶる低い。


そのあたりの事情をよく知る要人の秘書の原が、いくら惜しがっても、あのイケイケだった頃の義人はもういない。


人とは、かくも脆いのか……。





「まいらが、お寺に嫁いでも、いいの?」

ベッドに入ってかなりたってから、希和子はもう一度義人に尋ねた。


既にうつらうつらしていた義人は、希和子を抱き寄せた。


「お寺に嫁がせるんちゃう。孝義くんやったら、いいってこと。」


……わかったような、よくわからないような……どういうこと?

だって、孝義くんは宗門のトップなのに……。


希和子はさらに問い詰めようとしたけれど、義人がすやすやと規則正しい寝息をたてていることに気づいてあきらめた。



……まあ……今、私がやきもきしても、仕方ないことなのよね。

でも、本気でまいらが孝義くんの後妻になりたいのなら……今いらっしゃってるお嬢さまがたに、お引き取り願わないと。


……。

仕方ない。

様子、みてこようかな。


……まいらも、行きたがるかしら……。


そうだわ。

お茶のお稽古、そろそろまいらも始めてもいいんじゃないかしら。

桜子ちゃんと薫くんも4月から習い始めたし。


明日にでも誘ってみよう。


昔、お義母さんが私に作ってくださったお着物、そのまま、今のまいらにぴったりね。

私のお古だけど、着てくれるかしら。


でも、お古ばっかりだと、かわいそうね。

新調もしてあげたいわ。


まいらには、どんな色が映えるかしら……。



ふと、希和子は、母親らしい気配りをしていることに新鮮さを覚えた。



……今まで、私……まいらのことは、お義母さんに任せっきりだったのねえ……。

これからは、私がちゃんと、まいらを見守ってあげなきゃ。


母親なんだもの。



……明日は、家族揃って朝食を食べよう……。

まいらも、ちゃんと、起こして……。


……パン……あったかしら……。


いつの間にか、希和子も眠りの沼に沈んだ。



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翌朝、希和子が起きた時には、いつも通り、既に義人が朝食の準備を始めていた。

バターの甘い香りが廊下にも充満していた。
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