いつも、雨
「おはよう。パン切れてたから、パンケーキ焼いたで。」

「ごめんなさい。昨日、買い忘れちゃった。」

「いや、俺も忘れてたから。まいらの分は冷めるやろうから、生地のまんま置いとくし。起きたら焼いたげてな。」

「……早く起きてくるよう、言うたんやけど……」

「まあ、夏休みやし、ええんちゃう?」


妻にも娘にも甘い義人は、何の気なしにそう言った……が……


「もう!お父さん、ゆるーい。甘やかしちゃダメだってば!」

と、これまでさんざん甘やかされて育ってきたまいら本人が文句を言いながら現れた。


休みだというのに、服装もきちっとしている。


「……おはよう。まいら。……出かけるん?」

多少めんくらって、義人が尋ねた。


まいらは、あらたまってぺこりと頭を下げた!

「おはようございます、お父さん。おはようございます、お母さん。……あとで、ちょっと、そこまで……お散歩でもしようかなーって……。」


あまりにも不自然な娘に、希和子と義人は顔を見合わせた。


これは……まず、間違いなく、孝義への恋心ゆえの、努力ということだろう。


……なるほど。

もし本当に寺に嫁ぐとしたら、言葉遣いはもちろん、礼儀作法や生活習慣も、今のまいらでは失格だということを自覚したというところか。




「なんだ、まいら。もう起きたのか。おはよう。」

祖父の要人も姿を見せた。


「おはようございます、おじいちゃん。これから毎朝一緒にご飯食べようね。」

「……そうか。まあ、がんばれ。」


要人は孫の変化を、単に一時的な努力目標と捉えたようだ。


結局、その朝は、義人が焼いたパンケーキを、家族揃って食べることができた。






要人と義人が出勤するのを見送ったあと、希和子はテーブルを片付け始めた。

「手伝うね。」

と、珍しくまいらが率先して食器を洗い始めた。


そのあとも、突然イイ子になったまいらに、希和子は苦笑を禁じ得なかった。





「ねえ。まいら。お茶のお稽古、始めてみる?」

お昼ご飯の素麺を食べたあと、希和子は娘に習い事を勧めた。


待ってました!とばかりに、まいらは身を乗り出した。

「やる!行く!うれしい!明後日からよね?行く行く!」

「ええ。……わかってると思うけど、遊びじゃないからね?」

「うん!わかってる!……今、宗匠にお稽古をみてもらってるんでしょ?……ちゃんとする!」
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