いつも、雨
「……いつか、言い出すと思ってた。でも、私たちのマンション、もういっぱいいっぱいよ?夏の着物、一通り揃えたら、かさばるよ?もうこれ以上、和箪笥置けないよ?」


もともと桜子の和装が大好きな薫だが、2人で茶道を習い始めてからは、さらにキモノ文化に傾倒している。

神戸に住まう薫の祖母が、やはり着物が好きで、昔から桜子にもたくさんの着物を貸してくれていたのだが……その和箪笥には夏の着物もかなりの品揃えだった。

譲り受けたら、買わなくても充分だろう。

だが、如何せん、収納するスペースと、汗染みの世話をする人がいない。


薫は少しためらって……それから、うかがうように桜子を見て、口を開いた。

「……そのことやけど……ここに置かせてもらうゆーんは……図々しいか?」

「……。」


桜子は、返事できなかった。






この4ヶ月間、月水金は必ず夕方からお邪魔して、金曜日の夜はここで寝泊まりしてきた。

祖母の佐那子が亡くなってからも、毎週のお逮夜もあったし、変わらずに続けてきた。

はっきり言って、竹原家は、居心地がよかった。

掃除や洗濯は専門の人が来て全部やってくれるし、温泉も入り放題、ジムも使い放題。

食生活は何となく微妙だが、最近は義人の指導もあり、希和子の料理スキルも上がってきている。

……いずれにしても、家で自分達で準備しなきゃいけないより、遥かに楽ちんだ。

2人の住まうマンションと比較すれば、そりゃあ会社からも大学からも遠いが、要人や義人の出勤に同行すれば何の問題もない。


生前、佐那子は、桜子と薫に、いっそこの家で一緒に住まないかと何度も水を向けてきた。

割と本気でそれもいいかな……と思っていたが、思ったより早く佐那子は亡くなってしまい、有耶無耶になっている。

しかし、佐那子はいなくなっても、祖父の要人も、父の義人も、その妻の希和子も、娘のまいらも……桜子と薫を、親戚ではなく家族と思って接しているのがよくわかる。

要人の実の娘たちより、よほど親密なつきあいだ。


……しかし……それはそれで……微妙なこともある。


要人の大きな会社を、本当に実子の義人ではなく、孫とはいえ戸籍上は他人の桜子とその配偶者でしかない薫が継ぐことになるというなら……この家にこのまま入り込むことは、まるで桜子たちが、ゆくゆくは竹原家そのものをのっとるように思われてしまわないだろうか。



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