いつも、雨
無論、家族はそんな風に考えなくても、世間の目は冷たい。


「……やっぱりあかんか。まあ、そうやんなあ。うん、ごめん。気にしなくていいから。」

返答しかねた桜子に、薫はそう言って笑顔を見せた。


それでもうまく返事することができず、桜子は困った顔をしていた。


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翌日、薫の運転する車に希和子とまいら、そして桜子が乗り込んだ。

祇園祭の、後の祭りも終わったが、夏休みに入った京都の街はやはり人も車も多い。

抜け道で渋滞を回避しながら移動して、孝義の寺には昼過ぎに到着した。

寺の関係者用駐車場に車を置かせてもらい、行き着けの割烹に遅いランチに入った。


まいらは、何となく緊張しているようだ。


「そんな緊張せんでも、宗匠ゆーても、ちょっと前に継がはったばっかりの、優しい穏やかなオジサンやで?……猊下のほうが、よっぽど怖いオジサンやわ。」

この暑いのに顔色も何となく青ざめているまいらに、薫がそう言って慰めた……つもりだった。


でも、まいらはそれを聞いて、ぼぼっと赤くなった。

「……へ?……緊張って……猊下に、け?……マジか……。」


「もう!薫くん!デリカシーない!!!……ごめんね、まいらちゃん。せっかく素敵なお着物着てきたんですもんね。……坂巻さん、いらっしゃるといいねえ。」

「いや、だって、まいら、今まで猊下に対して、別に緊張とかしとらんかったやん?何でまた急に?」

「だーかーらー!……もう!デリカシーないー!」


わちゃわちゃ言い合う若夫婦を横目に、まいらは水を飲み干し、おかわりを頼んだ。


「……あんまり飲み過ぎないほうがいいわよ。ここは涼しいけど、お茶室、エアコンないからね。……全部汗になって出てしまうわよ。まあ、まいらの場合は、汗でお化粧が崩れる心配もないけど……座ったところに汗染みできたら、恥ずかしいでしょ?」

「こわっ!やめとく!」


母の希和子にたしなめられ、まいらは、そそーっとグラスと湯飲みを遠ざけた。


いたって真面目に汗対策に気遣い、襟や裾が乱れてないか何度も確認している娘を眺めて……希和子は微妙な気持ちになった。

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