いつも、雨
まいらは本気で孝義に異性として、恋しているらしい。

夫の義人も言っていたが、かつて孝義は誠実で魅力的な男で……義人がいなければ、希和子は孝義と幸せな恋をしていたのだろう。


運命の歯車がずれて、希和子は義人を選び、孝義は寺の関係者の中から選んだ女性と見合い結婚をしたが、妻となった女性は病弱だったらしく若死にしてしまった。

そして今、希和子の娘が孝義に本気で恋をして、後妻になりたいとまで言い出している。


これは、歴史の修正力ということだろうか。


……私が……孝義くんを選ばなかったことで、改変された未来を、あるべき方向へと、大いなる力が戻そうとしているのかもしれない。


「……孝義くん……に、会えるといいね……。……今日、いるのかしら?聞いてみる?」

複雑な気持ちながら、娘の純愛をほほえましく捉え始めている希和子は、携帯を取り出しながらそう尋ねた。

「へ?……会えない可能性も、あるの?……孝義くん、お寺にいつもいるんちゃうの?」

「けっこういないわよ。忙しい立場だもの。出張もあるし。」

「えー……。お茶のお稽古にきたら、必ず逢えると思ってた……。」


しょんぼりするまいらがかわいくて……希和子は孝義に所在を確認してみた。



食事を終える頃、孝義からの返事が来た。

「惜しい。さっきまでお寺に居たけど、出ちゃったって。宗派は違うけれど、お世話になったかたのご法要に出るんだって。お仕事じゃあ、仕方ないわねえ。」

「……うん。仕方ないね。」


そう言って、まいらはふにゃりとカウンターに崩れ落ちた。


「さすがにそれは……お行儀悪いから……」

希和子は小声でたしなめながら、娘の背中を撫でた。


慌てて姿勢を戻したまいらを見て、桜子と薫は思わず顔を見合わせた。



カウンターに頭を預ける……時にはそのまま寝てしまう……そんなこと、2人はかつて普通に繰り返して来た。

桜子の養父の純喫茶のカウンター席の端っこが、2人の待ち合わせ場所でデートスポットだったので、日常茶飯事だった。


「……お行儀悪かったんや……。マスター、呆れてたかな……。」


結婚してからは舅を「おとうさん」と呼んでいるのに、薫はかつての呼称で、今さら不安になった。


「当たり前過ぎて、何も感じてなかった……。けど、確かに、礼儀作法としては……ダメか……はは。勉強になるわ。」
< 584 / 666 >

この作品をシェア

pagetop