いつも、雨
桜子も背中に汗がつたうのを感じた。






国宝や重要文化財だらけのお寺の一画にあるお茶室は、やはり由緒ある文化財だ。

既に、一緒にお稽古している藤巻玲子と、なさぬ仲の息子の清昇(きよあき)が到着していて、畳を拭いていた。

「わ。玲子さん、遅くなってごめんなさい!」

希和子が謝って、大慌てでレースの割烹着を取り出して身につけた。

「全然。お寺の用事で早く来てたの。あら、まいらちゃん?こんにちは。暑いのにお着物がんばったの!えらいわぁ。今日から、よろしくね。」


まいらは、慌てて前に出て、玲子に深々と頭を下げてご挨拶をした。

「こんにちは。ご無沙汰してます。母がいつもお世話になってます。これから、私も、がんばりますので、よろしくお願いします!」

「あらぁ……別人……。」


天真爛漫だった少女が、ちゃんとご挨拶できるようになったことに、玲子は感心するとともに、少し淋しく感じた。


「まあ、くそガキだった薫くんも、とりあえず、お茶席では普通に敬語使ってくれるもんね。ヒトの子の成長は早いわぁ。……あ、うちの清昇くんは、最初からちゃんと敬語の使える礼儀正しいイイ子だったけど。ね。」

「……はいはい。お継母(かあ)さん、拭き掃除はもういいから、水屋のほう、頼みます。薫。一緒にやろ。」


清昇は玲子から雑巾を取り上げると、そのまま薫に手渡した。

薫と清昇は、神戸で少年期をともに過ごした幼なじみだ。


「おう。……ほんまは、こーゆーことは一番下っ端のまいらがせなあかんねんで?今日は綺麗な着物着とーから、免除したるけど。」

ニヤニヤ笑いながら、薫は偉そうにまいらにそう言った。


「え!そうなん?疲れる力仕事は、男のヒトの役目ちゃうん?」


目を丸くするまいらに、桜子は苦笑した。


「畳を拭くことは、疲れるけれど、力仕事ではないかな?ダイエットにいいわよ?……まあ、でも、薫くんのイケズを真に受けて、無理しなくていいからね。まいらちゃん。ほどほどに。一緒にやろうね。」

「うん!ありがとう!さっちゃん!」


まいらは桜子に笑顔を向けてから、薫にはごめんなさい!と両手を合わせるゼスチャーをしてみせた。


桜子はイケズと表現したが、薫が意地悪を言っているわけではないことは、もちろんよくよくわかっている。

だから薫も、まいらには遠慮することなく接している。

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