いつも、雨
「うん。……通り道っちゅうわけでもないけど、まあ、方向離れてへんし、寄り道。」

「特別公開とか、してるの?」

「……どやろ?」


答えられない薫に代わって、希和子が言った。


「睡蓮が見頃だそうよ。……午前中に咲くイメージだから、今まだ咲いてるかは、わからないけど。」

「ハスの花?」


怪訝そうなまいらに、希和子はほほえみ、頷いた。


「ええ。間に合うといいわね。」

「……ふーん?」



母や祖母ほどには、花に執着のないまいらは、微妙な返事しかしなかった。


それより、早く着物を脱ぎたかったし、ペットの鳥と遊びたかった。



「よし、行くぞ。まいら。ついて来い!」

「はい!」

なぜか偉そうな薫につられて、結局、まいらは元気な返事をした。




件(くだん)のお寺は、まいらだけではなく、桜子や薫はもちろん、希和子も初めての参拝だった。


「ギリギリセーフ!……どっちや?こっちかな?」

「薫くん?お庭、行かへんの?どこ行くのー?」


桜子が急ぎ足で、薫を追いかける。

「あとあと。とにかく受付行かんと。入ってしまえば、こっちのもんや。閉園には充分時間あるからな。」


薫は1人でずんずん進み、受付の若い僧侶から、大人四人の拝観券を手に入れた。


「どうぞ。ゆっくりしてください。……よろしければ、お茶、いかがですか?」

「え?いいんですか?ありがとうございます!ちょうど今、お茶のお稽古行ってきたところやから、お懐紙とかありますんで。」

「……。」

若い僧侶は、きょとんとしていた。


薫は、慌てて手を振った。

「あ!すみません!お茶て、緑茶か番茶でしたか!ごめんなさい!早とちりしました!てっきり、お抹茶たててくれよるんかと……。」


「……薫くん、失礼!……すみません、図々しいことを。どうか、おかまいなく。お庭を拝見して、帰りますので。」

追いついた桜子が息をはずませて、謝った。


美しい……とても美しい女性の登場に、若い僧侶の頬が染まった。


「あ。いえ。どうぞどうぞ。ちょうど今日は来客用のお菓子もお抹茶も、たーんとありますんで。召し上がってください。……お茶席は、まだお客さまがいらっしゃいますので、お使いいただけませんが……お隣の広いお部屋でしたら、お庭も綺麗に見えますんで。どうぞ。どうぞ。」
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