いつも、雨
「……ああ。驚いたわ。……ここより、茶室のほうが、蓮池がよぉ見えるし、こっち、来たら?」

「いいの?ご迷惑じゃない?」


ただの客人のはずなのに、まるで自分の家のように簡単にいざなう孝義に、桜子は目を丸くし、薫は半笑いで、さすが……と、つぶやいた。


「ぜんぜん。とっくに法要は終わったし、みんな帰らはったし。……なんや?まいら、どうした?……しんどいんけ?」


いつもなら、「孝義くん!孝義くん!」と、子犬のようにじゃれついてくるまいらが、珍しく大人しくしてるのは、かなり不自然だった。


「……ううん。大丈夫。……あの……私、お茶のお稽古を始めるの。……それで……あの……。」

「……ああ、そうらしいな。……がんばり。……ん?なんや?……どうかしたんけ?」


まるで昔の漫画のヒロインのようにもじもじしているまいらに、孝義は根気強く返答を待った。


「……あの……孝義くんに……お茶……飲んで欲しくて……。あ、今じゃなくて。ちゃんと習ってから。……お抹茶、身体にもいいし……リラックスできるから……。」



まいらはまいらなりに、孝義の状況を慮った上で、少しでも楽になってほしいと願っている。

そのいじらしさに、希和子の胸がいっぱいになった。

子供だ子供だと思ってたけれど、娘は成長しているのだ。


感動にこみ上げてる涙を我慢して、まいらを、そして、孝義の反応を見守った。



桜子と薫もまた、目を輝かせて凝視していた。




何ともいえない空気に、孝義は苦笑して、それからまいらの頭を撫でようとして……ためらい、手を引いた。

これまでのように子供扱いすることは、もう失礼かもしれない。


今までとは、あきらかに、違う。

まっすぐ孝義を見据えて突進してきた子が、恥じらい、怖れ、ためらっている。


……やっぱり、親子だな。

改めて、孝義はまいらに、かつての希和子の恋していた姿を重ねた。


そしてすぐに、去来した切なさを振り払った。




希和子はずっと、義人に……現在は夫だが、当時は義理の兄に恋をしていたのに、ずいぶんと長い間、それを認めようとせず、ギクシャクしていた。


孝義は、どうすることもできず、ただ近くで見ていた……。

好きだったのに。

本気で惚れていたのに、何もできなかった。

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