いつも、雨
……つくづく、自分は、この母子に対しては、そういう役回りなのかもしれない……。

どんなにまいらの気持ちが自分に向かってきても……たとえそれが、淡い憧憬でしかない初恋を越えた、本気の恋心だとしても……孝義にはどうしてやることもできない。

立場も、年齢も、ちがいすぎる。

妻を亡くしたばかりのおっさんが、中学生の女の子の恋にほだされるわけにはいかない。


だからと言って、今さら、突き放して、傷つけたくもない。


……まいらが、他の男に、ちゃんと惚れるまで……泰然としていなければいけない。




孝義は丹田に力を入れて、いつも通りの軽口でかわした……つもりだった。


「たいそうやな。抹茶なんか誰でも立てられるやん。……え……あ、いや……」

まいらの表情が、これまで見たことのない、切なさを帯びた。

ますます母親の希和子に似ている……いや、希和子より、素直な表情は、父親の義人っぽくもある。

いずれにせよ、ようやく芽生えた豊か過ぎる感情の波に、まいらは今にも泣きそうな瞳をしていた。


結局、孝義は、ほだされた。




「……ありがとう。」

思わずそう言って、すぐさま後悔した。



それだけでは、返事としては不充分だ。


ますます注視される8つの瞳の圧力に、孝義は続きを言わされた。

「……せやな。土曜日は何かと行事が入るから、留守のときは無理やけど、寺にいるときには、ご馳走になるわ。」




ようやく、緊張感がとけた。



ほっとしたらしく、まいらの瞳からほろっと一粒だけ涙が落ちた……が、まいらは頭ごとぶるぶる振って涙を振り払って、笑顔を見せた。



……かわいい……。


孝義のみならず、母親の希和子も、異母姉の桜子も、その夫の薫も、まいらの乙女心にうたれた。






甘酸っぱい、ほんわかしたムードは、僧侶の遠慮がちな案内でようやく霧散した。



「とりあえず、今は、ここのお抹茶、いただきよし。美味しかったで。」

孝義に誘われ、小間ながら趣のある立派な茶室で、お菓子とお抹茶をいただいた。


「……味が違う。甘いね。……美味しい。」

一口飲んで、桜子がそう呟いた。


「ほんまや。全然違う。香りも違う。」

薫も、何度も確認しながらそう言った。



「へえ。わかりますか。そうなんです。いつもは、もうちょっとスッキリしたお茶を調合してもらうんですけどねえ、これは今日の法要のために、亡き人好みのお抹茶にしてもろたんですわ。あんまりお抹茶が好きやなくて、甘いお茶しか飲めはらへんかったんです。」

半笑いで、僧侶が説明してくれた。
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