いつも、雨
孝義以外はもちろんこのお寺でいつも使っているというお抹茶を飲んだことはないので、その差がわかるわけではないが、特別なお茶ということで、味わっていただいた。


最後にお茶を受け取った希和子が、飲み干した抹茶茶碗の縁を拭っているとき、孝義が庭の一角を黙って指さした。


「……なぁに?」

釣られて、孝義の指先を辿る。


広い広いお庭の、大きな池の向こう……白い蓮の花の上に浮かぶ観音立像のように、人がいた。


目を凝らすと、2人……男性と女性がぴったりと寄り添って歩いているようだ。



遠目が利くまいらが、立ち上がった。

「……おじいちゃんと……橘のおばさま……」


まいらの言葉に驚いて、希和子は抹茶茶碗を持ったまま立ち上がり、縁側へ出た。




「なんや。あの2人を追って来たんやと思ってた……。違ったんか……。」

孝義のつぶやきは、誰の耳にも入らなかった。




「橘のおばさまって……天花寺恭匡さんの叔母さんで、百合子さんのお母さん……えーと……親戚だけど、主家のかたで……旦那さん、いるよね……。」

頭に入っている系図を思い出して、桜子がつぶやいた。


「ああ。竹原のおばあちゃんの葬儀に来てはったで。旦那さんと。……おじいちゃんと、不倫か……。」

憮然として薫が決めつけた。


「……不倫て……お散歩されてるだけで、そんな、決めつけちゃ悪いわよ。」


桜子はそうたしなめてみたけれど、希和子とまいらの顔を見て……それ以上何も言えなくなってしまった。



……まいらは、明らかに睨んでいたし、希和子は泣きそうな顔をしていた。





「……こっちに回って来はるっぽいな。閉めるで。」

孝義は、控えていた僧侶に一応そう声をかけると、返事を待たずにさっさと庭に面した簾戸を引いた。
慌てて薫も反対側の簾戸を引き、閉めた。


もともとこの茶室には、室内灯はついていない。

薄暗い部屋から、葭簾の隙間越しに、まだまだ明るい庭園がよく見えた。



「……このお部屋だけ御簾戸閉めてたら、目立ちますさかい、他のお部屋も閉めてきますね。」

気を利かせた僧侶が、そう言って、部屋を出た。



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「おや。戸締まりを始めたようだ。……そろそろ出ないと迷惑かな?」

庭園を散策していた要人は、墨染衣の僧侶が簾戸を閉めて回っていることに気づき、時計を見た。
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