いつも、雨
領子もまた、要人の腕につかまったまま、要人の時計を覗き込んだ。

「……まだ少しあるようですけど……お片付けされてるなら、出口に向かいましょうか。名残惜しい気もしますけれど。」

「おや。そんなにお気に召しましたか。では、また午前中に参りましょう。もっと咲いているようですよ。」

「あら。……蓮の多さより、人の少なさがいいのよ。……この時間のここでしたら、知り合いに見られることもなさそうですもの。」

「またそんなつれないことを。」


大仰に嘆いて見せた要人をちょっと睨んで見せてから、領子は肩をすくめて、あきらめたように、再び要人にしなだれかかった。


「……だって……私たちが後ろ指さされるのは、自業自得ですけど……一夫さんに恥をかかせるのは困りますわ。」

「いや、だから、何度も申し上げていますが、外聞を気になさるのならば、いっそ離婚なさったほうがマシだと思いますよ?」

悪魔のような微笑みを浮かべて、要人が囁く。


領子は、もう……と小さく抗議して、少し歩く速度を上げた。



「……今さら……こんな歳になって、今さら、一夫さんを1人にできるわけないじゃない……。」



何度も何度も、飽きることなく繰り返された説得と拒絶の言い分を真面目に言い合う。


平行線のまま、それでも仲睦まじく、寄り添い、歩く。



やれやれ……と、要人が、使い古した嘆きを繰り返す。

「私は、会社も、社会的地位も、家族も捨てると何度も申し上げてきましたが、領子様には拒絶されっぱなしの人生ですねえ……。」

「……仕方ありませんわ。わたくしには、家族を捨てるなんて考えられませんもの。……竹原も……ご家族を捨てるなんてことにならなくて、本当によかった……。」



簾戸の内側で聞き耳を立てていた面々にも、はっきり聞こえた。


……要人は、領子のために平気で家族を捨てる気でいた……。




まいらは思わず簾戸の引き手に手を伸ばした。


飛び出したかった。

おじいちゃんは、私たちを何度も捨てようとしたと言った。

存在そのものを否定された気がして、まいらは、とても耐えられなかった。



だが、飛び出すことはできなかった。


まいらの激情に気づいた孝義が、まいらの手を掴んで止めた。


そして、黙って首を横に振って見せた。
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