いつも、雨
みるみると、まいらの両目に涙が浮かび上がり、溢れ落ちる。

とても見てられず、孝義は、ぐいっとまいらの頭を自分の胸に押し付けた。

夏用で薄地とは言え、豪華な金襴と刺繍の入った袈裟は、けっこうごわごわと硬くて肌触りはよくなかったが、まいらは声を押し殺して孝義にしがみついた。

孝義は、ぶるぶると震えながらも必死に嗚咽をこらえるまいらの背を優しく撫でてやった。

それだけで、荒ぶったまいらの心が凪いでゆく……。





「佐那子さまと希和子さまに、わたくし、心から感謝していますのよ。竹原に安らぎと温かな家庭を与えてくださって……わたくしにはできませんでしたもの……。」


大好きな養母で姑の佐那子が哀れで、青い顔で、口元を抑えていた希和子は、突如自分の名前を出されたことに驚き、顔を上げた。



「……ええ。本当に。妻が逝ってしまっても、希和子が、一生懸命やってくれてて……助かってます。桜子と薫くんも、妻の生前と変わらず来てくれるので、これでも、俺も、家に帰ることを楽しみにしてるんですよ。それもこれも、快く受け入れてくれている希和子のお蔭ですね。」



桜子と薫は顔を見合わせ、それから、希和子を観た。

希和子もまた、2人を見て、何ともいえない表情を浮かべた。


桜子は、たまらず、希和子の手をぎゅっと握った。

どうすることもできず、声を出すこともはばかられるけれど、いつも感じていた感謝の気持ちを少しでも希和子に伝えたかった。


希和子は半泣きで、こくこくと頷いた。


さっちゃんの気持ちは、わかってるから……。

私こそ、ありがとう。






簾戸の内側で、そんな無言劇が繰り広げられてることなどつゆ知らず、要人と領子は呑気に会話を続けた。

「本当に……いいお嫁さん……。いえ、いいお嬢さんを、佐那子さまも、義人さんも、よくぞお迎えしてくださいましたわ。……でも、希和子さまに、お家のことをお任せしていて、よろしいの?ご実家のお手伝いや、研究でお忙しくしてらっしゃいませんでした?……竹原のエゴで、家事に縛り付けていらっしゃらない?……あまりご負担をおかけしないようにしてさしあげてくださいね。」

「おやおや。領子さまがそれを仰いますか。……キタさんが亡くなってから、橘家の家事は百合子と婿殿がなさってるのでしょう?婿殿はともかく、百合子は、何もできないお嬢さま育ちのはずですが?」
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