いつも、雨
笑いを含んだ要人の声も、いたずらっ子のような表情も、家族には見せない、チャーミングな魅力に溢れていた。


「あら。わたくしは、止めたのよ。でも、碧生くんは独り暮らしの経験もあるし、とっても器用で気が利くんですもの。……百合子は、碧生くんと、由未さんから、良い影響を受けたようですわ。何だか楽しそうにお料理のお勉強をしていてよ。……でも、竹原?希和子さまと百合子を同じように考えては、いけませんわ。百合子は希和子さまのように、社会に有益な活動も、お勉強もしてませんもの。……子供たちと、碧生くんのために、身体に良いお料理を考えたり、合成洗剤ではない純石鹸でお洗濯したり……小さなこだわりが芽生えて、ようやく地に足がついたようだと言ってますわ。」

「……ほう。それはよかった。しかし、まさか百合子がねえ……。変われば変わるものだ。」


しみじみつぶやいた脳裏に、百合子と別れた泉勝利の、強がっていた笑顔が浮かんだ。


……彼との別れもまた、百合子の意識を家庭へと向けさせた一因であることは間違いない。 
これでよかったのだろう……。



「……では、お家のことは百合子に任せて……どこかに旅行でもいたしましょうか。ちょうど、会社も、もうすぐ休みに入るし。」

 
呑気にそう言った要人を、領子は叱った。


「休みって!佐那子さまの初盆なのに!絶対だめ!ちゃんとお迎えしてさしあげてください。」

 

要人は、肩をすくめて、ぼやいた。

「……特に何をするというわけでもないし……いいんじゃないですか?」


 
簾戸の内側で、まいらが、希和子が、そして桜子が、いきり立った。


憤然と、簾戸を開けて要人に突進しかねないのを、薫と孝義が、必死に止めた。



「そんなことおっしゃらないで。お願いですから、せめてお盆の間は、佐那子さまのご供養をなさって。ご家族で法要やお墓参りをなさらなくても、竹原だけでも、お迎えしてさしあげて。」


「……はあ……まあ、領子さまが、そう、おっしゃるなら………………」


「………………」

「……………」

「…………」


次第に、声が小さくなって、聞こえなくなった。


どうやら、行ってしまったらしい。




薫が、そーっと簾を開けて、覗いた。

 
「……おじいちゃんたち、行ったみたい。」


そう呟いたけれど、誰も何も返事しなかった。

桜子も、希和子も泣いていた。


まいらにいたっては、孝義に羽交い締めにされて、顔をくちゃくちゃにして泣いていた。

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