いつも、雨
孝義は、訝しげに聞いた。

「……え……作れるん?」


まいらは、曖昧に首を傾げたのか、うなずいたのか、よくわからない反応を見せた。


孝義が笑った。

「なんや、それ。……気ぃつかってゆーてるんやったら、気にせんでええで。」


まいらはふるふると首を横に振った。


「ううん。違うねん。……お家でまで、孝義くん、猊下の顔してるんやもん……かわいそう。……自分ちぐらい、気兼ねせんと過してほしいなあ、って。」



孝義は目を見張った。


……同じようなことを……かつて、言われたことがあった……。


亡き妻は、病弱な身体で、孝義がくつろげるようにと、いつも心掛けていてくれた。



「……そうか……。ありがとう。……そやな……もし、ほんまに、してくれるんやったら、助かるな。」


そう言ってしまってから、孝義は慌てて打ち消した。


「いや、あかん。お客さんに、そんなこと、させたらあかんな。ごめんごめん。」


「する!それで、あの人らと顔、合わせんですむんやったら、する!……ゆーても、お手伝いばっかりで、作れる料理のレパートリーめっちゃ少ないから……最初のうちは失敗もするかもやけど、私、がんばるから!やらせて!」



まいらがあまりに必死の形相なので……、

「……おう。そうか。……まあ、がんばれ。……できる範囲で、ええで?」

と、孝義は言っていた。



「うん。……こんな、旅館の朝ご飯みたいに、小鉢いっぱい並べるのは無理やけど、果物と野菜でフレッシュジュースとか、健康そうなの、作る!」


かつて、祖母のために父の義人が準備していたメニューを思い出して、まいらはそう言った。



孝義は、ふっと笑った。

「そうか。そりゃ、ええな。……まあ、小鉢いっぱいゆーても、出来合い品とか、作り置きとか……。夕食も、やたら豪勢なもん準備してくれてはるけど、うちの家計で、あんなもん出来るわけないのにな。……俺も、もうエエ歳やし、品数減らして、脂モンも控えてくれてええんやけど……」



……そっか。

お料理するには、お買い物もする必要があるもんね。


「はーい!わかりました!ほな、決められた食費でやりくりして、朝食と夕食の準備、しまーす!……やらせて?……お願い!」


必死の形相で、そう頼み込むまいらに……孝義はため息をついた。

そして、頭を軽くぽんぽんした。
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