いつも、雨
「……すまん。お願いするんは、こっちやろ。ありがとう。ほな、頼むわ。でも、嫌になったら、いつでも辞めてくれてええから。……それから……。」


孝義は、ちょっとためらってから、言った。


「ほな、昼は、寺においで。一緒に昼飯食おう。……ゆーても、ほとんどが、店屋物か、近くに食いに行くだけやけどな。……まいらも、昼ぐらいは、楽したいやろ。」

「うれしい!!!行くっ!!!」

ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶまいらに、孝義は目を細めた。


素直に、かわいいと思った。







10時頃、義人がまいらの荷物を持って、孝義の自宅を訪ねて来た。

孝義は寺に出勤していたが、義人到着の連絡を受けて、帰宅した。

「孝義くん。この度は、娘が厄介になるそうで。……迷惑じゃない?」

いくつになっても、立場が変っても、やわらかい言葉で話し掛けた義人に、孝義は慇懃無礼に頭を下げた。

「いや。俺が言い出したことですので。迷惑どころか、却って恐縮してます。……まいらが、朝食と夕食も作ってくれるそうですわ。……こき使うことになってしまって……すいません。」

「へ?まいら?料理?……へえ……それはそれは。……いっそ。掃除と洗濯も、やってみれば?」

義人は、からかうように、まいらに勧めた。


まいらは、神妙にうなずいた。

「うん。ほんまは全部やってみたい。でも、最初から、全部は無理やと思う。……とりあえず、由未ちゃんに、旬の食材とか、レシピとか聞いて、お料理にチャレンジしてみる。」


思ってもみなかった返答に、義人は目を丸くした。


目の前の娘は、確かに娘のまいらのはずなのに……昨日までと別人のようだ。

なんとまあ……。

突然、オトナになっちゃったなあ……。



苦笑して、義人は言った。

「そうか。まあ、やってみ。……て、俺にも、何でも、聞いてくれていいねんで?」


しかしまいらは、真顔で拒否した。

「うちの食卓、贅沢やもん。予算オーバーやわ。参考にならへん。」

「……。」

言葉にならない呻き声が、孝義の口から漏れ出た。


義人は、気の毒そうに孝義に目配せして、それからまいらをたしなめた。

「内々のことは、言うたらあかんよ。まいら。」


「……なるほど。はい!」


まいらは、義人にそう返事してから、孝義に向かって頭を下げた。


「ごめんなさい!もう、言いません!気をつけます!」
< 603 / 666 >

この作品をシェア

pagetop