いつも、雨
躊躇(ためら)うまいらに気づいて、義人が口火を切った。

「お父さんと橘のおばさのデート現場に居合わせたって?」


まいらは、何も言わずにうなずくと、ぎゅーっと力を込めて、義人の腕にしがみついた。


……けっこう、痛い……。


まいらの手にぽんぽんして、力を緩めてくれるよう促しながら、義人は続けた。

「びっくしたやろ?ごめんな。ちょっと前までは、誰にもバレへんように逢うてはってんけど、このところ、タガが外れたみたいでなあ……あっちからもこっちからも、話、聞くねん。開き直ってはるんかなあ。」


驚いた顔で、まいらは義人を見上げた。

「……いいの?だって……不倫でしょ?」


義人は、無意識に目を細めた。


純真無垢な娘に、不倫を罪悪とも純愛とも言うことは憚られた。

しかし、適当に誤魔化すわけにもいかない。

父親の沽券に関わってくる。


……とにかく、話そう。


義人は覚悟を決めて、口を開いた。

「よくない。少なくとも、領子(えりこ)おばさまには旦那様がいるからね。」


当たり前のことを言った義人に、まいらは、ホッとしたようにうなずいた。

そして、再び真面目な顔で尋ねた。

「じゃあ、どうして、橘のおばさまは離婚しないの?……おばさま、旦那様のおじさまより、うちのおじいちゃんが好きみたいやったのに。」


……そんなことまで、言うたんか……。

義人は頭を掻いた。


「……せやなあ……。一言で言えんけど……お父さんと領子おばさまは、お互いに、唯一無二の存在なんやと思う。でも、立場の違いとか、タイミングとか……2人にとって、どうしようもない状況で、結婚は別の人としてしまったんやろな。……まいらは、簡単に離婚すればいいと思うかもしれんけど……結婚した相手のことを大切に想ってたら、離婚もできひんもんやと思うで?」


まいらは不満そうに口を尖らせた。

「そんなん、結婚した人に失礼やわ。橘のおじさまも、うちのおばあちゃんも!かわいそうすぎる!ひどい!」


義人は、言おうか言うまいかしばらく逡巡して……、小さく息をついてから、言った。

「……いや、2人とも、理解していたよ。うちのお母さんは、領子おばさまと再婚するなら離婚すると言ったし、橘のおじさまも、お父さんにおばさまを託そうと何度もしてきたようだよ。……でも、橘のおばさまは、義理堅いかたでね……お父さんに、お母さんや俺らを捨てることは許さなかったし、ご自分も旦那さんを独りにできないと頑なでね。」
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