いつも、雨
義人の葛藤をよそに、まいらはまいらなりに、一つの答えを導き出した。




「お父さん。」


真面目な娘の呼びかけに、義人は背筋を伸ばした。


「うん?」


続きを促すと、まいらは、軽くうなずいて見せて、それから言った。


「愛情が増えるって意味、何となく頭ではわかるような気がする。でも、それって一方的な言い分だと思うの。……おばあちゃんは、おじいちゃんの愛情を独り占めできなかったってことでしょう?……いくら、おばあちゃんが生前、幸せだって言い残してくれても……まだ、そこは納得できない。……でも……」


「……でも?」


続きを促すと、まいらは、思い切ったように言った。


「でも、私、おじいちゃんを嫌いになりたくない。……おじいちゃんと橘のおばさまの気持ちは置いといて、橘のおじさまや、百合子おばちゃまがどんな気持ちでいるのかを考えたら、つらい。……おじいちゃんは、ケジメをつけるべきだと思う。」


論点も筋道もぶれぶれだが、まいらの葛藤の一端をうかがい知ることができた。



義人は、ゆっくりうなずいて、まいらの頭を撫でた。


「……イイ子だね、まいら。……そうだね……ケジメ……か……。……うん、まいらは?どうすればいいと思う?……おじいちゃんと、領子おばさま……。」

「……どうって……。」

改めて聞かれると、具体的なことは何も言えなかった。



しばらく待って、それから義人はあさっての方向を見て暢気に言った。

「……まあ、ゆっくり考えよし。……とりあえず、まいらが、お父さんを嫌いになったわけじゃないなら、よかったよ……うん。……それで、充分やわ……。」



義人自身もまた、要人に対しては、好き嫌いを超越した反発も憧憬も……諦めもある。

複雑な想いを抱えたまま、娘に偉そうなことは言えない。



「うん。そうする。……ありがと。」

まいらは簡単にそう言ってから、義人の腕にすり寄った。


ふたたび甘えてきた娘の背中を優しく撫でながら、義人は言った。

「……お父さん、まいらがいないから、不機嫌だったよ。」


まいらは、淡々と言った。

「自業自得。……でも、おじいちゃん、私が『橘のおばさまと別れて』ってお願いしても、叶えてくれないでしょ。……家族より、おばさまが大事なひとだし。」


「……厳しいね。」
< 609 / 666 >

この作品をシェア

pagetop