いつも、雨
足の悪い、うまく飛べない、ただただ愛らしいイザヤの、ふわふわの羽根や、控えめに甘え鳴きする声を思い出すと、涙がこみ上げてくる。


娘の里心を刺激した手応えを感じつつ、義人は敢えて軽やかに帰って行ってしまった。



後に残されたまいらは……お茶碗やお菓子のお皿を片付けながら、泣いた。

ざぶさぶ水を出して洗い物をすませると、ついでに顔も洗って、涙を流してしまった。


動物のように、ぷるぷると頭を振って水を弾き飛ばす。

それから、両手で両の頬を、パン!と叩いた。


……泣いてる場合じゃない。

やるべきことは、山ほどある。


まいらは、父の持ってきた荷物から適当な洋服を選んで着替えた。


夕べも今朝も、孝義の亡くなった妻の衣服を借りた。

地味ながら上質で上品な数々の服は、どれも袖を通した形跡すらないままに箪笥の中におさまっていた。


……季節ごとに、ちゃんとお洋服を買ってらしたのに……ほとんど着ることもなく、パジャマで寝てらしたってことかな……。


考えると、気が重くなる。



まいらは、借りたお洋服を洗濯機にかけて、それから冷蔵庫の中身をチェックした。

家庭用としては最大級の大きな冷蔵庫には、いただきものと思われる果物やハム・ソーセージ、缶ジュースやビールがぎっしりと詰めてあった。


……桃がこんなにいっぱい……。


そうだ。

孝義くんに持ってってあげよう!



まいらは、意気揚々と冷蔵庫から桃を出し、熟れてそうなものを選んだ。


食べやすい大きさに切り分け、塩水に漬けてから、タッパーウェアに詰めた。



時計を見ると、まもなく正午だ。


まいらは、預かった鍵をかけて、孝義の自宅を出ると、広大な敷地をぐるりと回って歩いた。


立派な御堂や書院を横目に寺務所を訪ねる。

日曜日でも、観光客や参拝客が多いため、職員さんはいつも通り交代で出勤している。


受付で名前を伝えると、すぐに孝義のいる部屋へと案内された。




「どうぞ。ああ、ありがとうございます。……来たな。……なんや、また泣いたのか。大丈夫か?」



案内の職員が部屋を出て行くと、孝義の顔付きも口調もコロッと変わった。

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