いつも、雨
「うん。大丈夫。お昼、食べに来た。……これ、デザート。冷蔵庫、すごいね。ぎっしり。買い物行かなくても夕食できそう。」




孝義には、まいらの笑顔が痛々しく見えた。



「……無理しなくていいで?」

「無理してないよー。てか、どんどん食べな、賞味期限切れそう。」

「……残念やけど、食い切れんから、期限切れたら、処分してくれるけ。」

「え!捨てるの!?もったいない!」

「……いや、まあ、そうやけど……食べ切れんしなあ。……寺宛にしてくれたら、職員で、分けてもらえるんやけど。……とりあえず、昼飯、行こうか。」



孝義はそう言って、まいらの持ってきたタッパーウェアをひょいとつまみ上げた。



「わーい。おなかすいた。外食?するの?」


パタパタと、はいたばかりのスリッパをならしながら、まいらは孝義のあとをおいかけた。


「いや。店屋物。平日は、ほとんど給食弁当やけど、今日は休みやから。」


……給食弁当。


よく知らないけど、いかにも……おいしくなさそう。


慣れたら、ランチも私がお弁当作ってあげたほうがいいかも。



孝義は参拝客や職員から話し掛けられるたびに、余所行きの笑顔を貼り付けて、会釈し、挨拶を交わした。



……プロだわ、孝義くん……さすが、猊下。


すぐ後ろで慈悲深い孝義の仮面を眺めて、まいらは感嘆した。




「孝義くん、すごいねえ。人によって、別人にならはった。」


「……それって、褒められたことちゃうんちゃうけ?……あかんやん。修行が足らんな。」


反省しているらしい孝義も、まいらには好ましかった。



さて。

同じ敷地内なのに、またしてもなかなかの距離を突っ切って、ようやく喧騒から離れた一角に到着した。

古い洒落た洋館だ。


「ここで食べるの?」

「ああ。もう運んでくれてはるわ。……どうぞ。……おじゃましまーす。」

「……こんにちは。おじゃまします。」


誰もいなさそうなのに、声を張って挨拶した孝義に倣って、まいらも建物に挨拶した……つもりだった。


が、まいらは、感じた。

人ならぬモノの気配を。

 
「いらっしゃい。待っていたわ。」


そんな声が聞こえた……というよりは、直接、脳に降ってきたかのように、まいらの中に飛び込んできた。

まいらは目を見張って、きょろきょろと周囲を見渡した。


誰もいないはずの、古いカウチに、和装の美女が座っていた。


「……たかいこ、さま?」


おそるおそるそう尋ねると、幽霊の高子(たかいこ)は、うれしそうに笑った。
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