いつも、雨
……あるいは、若いくせに喰えないこの男よりも、素直な桜子に尋ねたほうが話が早いだろう。


要人は、コーヒーに口を付けて、それから扉に目を向けた。


興味を失ったかのような要人の態度に、薫もまたアイスコーヒーを飲み干してから、ソファに沈んだ。



程なく、扉がノックされ、秘書の原が、続いて桜子が入室してきた。  

桜子は、ふてぶてしくソファでくつろぐ薫を見て、ぎょっとした。


薫はお構いなしに、桜子に手を挙げて見せた。

が、秘書の原にねめつけられ、慌てて、普通に座り直した。



……なるほど……婿殿は、社長より原さんが怖いのか……。

芦沢はこっそりほくそ笑んだ。




「……あー、桜子。せっかく薫くんの初出勤だから、今日は外にランチに行こうか。」 


要人は、当たり前のように、桜子と薫だけを誘い、同じフロアにいる義人の存在は無視した。


しかし、薫が無邪気に言った。

「わ!ありがとうございます!ちょうどいいや。義人さんにまいらの様子、聞きたかった
し。」


慌てて桜子が薫をたしなめようとした……が、原が間に入った。

「では、義人さんにも、後ほどお声掛けして参ります。」
  

さすがに、ここで義人だけ誘うなとわざわざ秘書を止めることはできなかった。

 


要人は渋々うなずくと、桜子をソファに座らせた。


そして、桜子の目をじっと見つめて……不安そうに問い掛けた。


「……孫のまいらが寺から戻って来ないので、心配しているのだが……土曜日、何か、あったのかね?」


「あ……えーと……いえ、あのぉ……。」 


桜子はしどろもどろになり、要人の圧力に耐えかねて……夫の薫に助けを求めた。


薫は、肩をすくめて、ため息をついた。


「おじいちゃん-。……土曜日、俺らも、まいらも、希和子さんも、孝義さんを追っかけて蓮の花を観に行ったんですわ。……で、たまたま茶室のなかで、たまたま女連れたおじいちゃんの会話が丸聞こえやっただけですわ。」


「なに……。」


簡潔な薫の説明で、要人は全てを察した。


愛する孫娘は、とうとう知ってしまったのだ。


要人が橘領子を、家族よりはるかに大切に想って生きていることを。


……いつもの戯れ言でしかないが……あの時も、何の気なしに、まいらを傷つけるようなことを口にしていた……。
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