いつも、雨
「薫くん……」


桜子はオロオロして、夫と祖父に何度も視線をさまよわせた。



要人は、桜子の瞳が涙でゆらゆら揺れていることに気づいた。


「……すまない。桜子。……薫くんも。……驚かせてしまったね。」

「いや。俺らは、別に。……なあ?」

薫は、桜子にも同意を求めた。


桜子は黙ってこっくりうなずいて、それから、声を震わせて言った。

「まいらちゃんに、おじいさまのお話を、ちゃんと、してあげてください。……とても、ショックを受けていて……見てられませんでした。」



要人は、もっともだと、深くうなずいて見せた。


「……ああ。そうするとしよう。しかし、まいらは、逢ってくれるだろうか。……話したら、私に呆れて、絶縁されてしまうかな。」



らしくない弱気な発言に、秘書の芦沢は、ただただ驚いた。



「何で?おじいちゃん、ちゃんと、まいらのこと、大切に想ってるやん。それ、そのまんま、伝えたらいいやん。まいら、成績悪いゆーても、阿呆ちゃうし、話せばわかると思う。……それでもゴネたり拗ねたりするとしたら、甘えとーだけや。」



乱暴な薫の言葉に、桜子は頭を抱えたくなった。



いくらなんでも、フランク過ぎるよ、薫くん。

せめて敬語……敬語は崩さないでー。




桜子の心の叫びは届くはずもなく、薫は、さらに続けた。

「……おじいちゃんが知ってるかどうかわからんけど、うちもけっこうややこしい家で……父方の祖父は、俺の父親が生まれる前から、家を出て、別の女性と家庭を持っとってんわ。今は、家に戻って祖母と仲良く暮らしとーけど。……35年間、や。35年もの間、家には寄りつきもせんかったけど、誰も、祖父に呆れとらんし、今となっては、普通の家族と変わらんわ。」


「……35年……。」


さすがに驚いた。


「うん。35年間。せやのに、祖父と祖母は、めっちゃ仲良しねん。それみたら、誰も、何も文句言わんて。……当事者が幸せなら、もう、それでええやん、て。……な?」


薫に問われ、桜子もうんうんとうなずいて見せた。


そして、思い切って、言ってみた。


「……複雑な家庭環境なのは、うちもそうでしたけど……私は、パパもママも大好きで……、……義人さんのことを知っても、誰のことも、呆れたり嫌いになったりなんか、しませんでした。……むしろ、今は、大好きな家族や親戚が増えたことをうれしく思ってます。……まいらちゃんも……納得するのに時間はかかるかもしれませんが、おじいちゃんがちゃんと話してあげたら、たぶん、落ち着かはると思います。」
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