いつも、雨
「……さっちゃん……。」


いつの間にやってきたのか、ドアの近くに義人が立っていた。



ドキンと、桜子の心音が跳ね上がった。


つい今しがたの自分の言葉に対して、不安が広がった。



私、……いま、何か、よけいなこととか、言わなかったよね?

義人さんのこと、当たり障りなく、家族って、ちゃんと言えたよね?


……ドキドキする~。



桜子は、再会した当初、実の父親であるはずの義人に対して、恋のようにときめいた。

そんな微妙な乙女心を置き去りにして、今は近しい家族として信頼しているつもりだ。


だからこそ、自信をもって、言える。


「家族ですもん。大丈夫ですよ。おじいさま。……むしろ、まいらちゃんも、……私も、おじいさまのことをもっと知りたいと思ってます。知れば、わかりあえるはずです。家族ですから。」



純粋培養で育った桜子に、キラキラと輝く瞳でそう熱弁されて……要人も、義人も、何とも言えない気恥ずかしさを感じていた。



自分たちは、桜子ほどには善意でとらえることはできないであろう。

だが、桜子の言わんとすることは、よくわかる。


家族だから、確執も、許し合うことができる……はずだ……。


……たぶん……。




要人は、ようやく微笑した。

そして、おもむろに手を伸ばし、桜子の頭を撫でた。

「……ありがとう。桜子。……そうだな。隠れてコソコソしてたのが却って仇(あだ)になってしまったな。……私1人の問題じゃないから、今すぐ何か変わることはできないかもしれないが……少なくとも、私は、家族の理解を得られるよう、努力すべきなのだろうな。」


しみじみとそう言ってから、要人は義人に視線を向けた。


そして、いつもよりやわらかい声で言った。


「……家族のことも……会社のことも……時間はかかるかもしれないが、より良い方向へ進めるよう、話し合う必要があるようだな。……まいらが家に戻って、落ち着いたら、今度は、お前と腹を割って話すことにしよう。」



義人の頬が少し赤らんだ。

瞳が輝き……そのあと、動揺に揺れた。

言いにくそうに、義人が口を開いた。


「……それが……まいらの帰宅は、少し先になりそうです。……もしかしたら、夏休み中、帰って来ないかもしれません。……あ、いえ、お父さんに対してこじらしてしまってるとかじゃなくて……何か、突然、料理に目覚めたみたいで……夏休みの自由研究にするから、身体にいい旬の料理を教えろと、由未と連絡を取り合ってるようです。」
< 620 / 666 >

この作品をシェア

pagetop