いつも、雨
「げ。マジか。……勘弁。」

要人ではなく、薫がそうつぶやいた。


「……そうか。ごめんごめん。まいらが孝義くんのところにいると、薫くんにも迷惑をかけてしまうんやなあ。……どうする?夏休み中は、家庭教師、お休みにしようか?」


薫の気持ちを察知して、義人がそう提案した。




「いや、迷惑というか……うーん……。」


薫自身、断言できるほどに、迷惑というわけでもない。

ただ何となく……猊下と呼んでいた孝義に対する畏怖が、苦手意識に育ったような……。



「……そうですね、おじいちゃん家(ち)には、むしろ毎日お邪魔したいけど、孝義さんとこは、俺には、敷居高いですわ。緊張するってかんじ?」


薫は、素直な気持ちを口にした。




要人の顔がぱっと輝いた。

義人も、また、要人の表情をみて、ほほえみを浮かべた。

「うれしいよ。そう。じゃあ、いっそのこと、君たち、うちに引っ越して来ないかい?まいらの家庭教師をどうするかはこれから考えるとして、それとは別に。……家族として、薫くんも、さっちゃんも……一緒に暮らしたいんだ。……ねえ?お父さん。」


義人の言葉に同意することに多少のためらいを感じはしたものの、要人はつまらない意地っ張りを封印して、不承不承頷いた。


そして、成り行きに驚いているらしい桜子に向かって懇願した。

「佐那子が亡くなって、まいらまで家を出て……火が消えたようでね……。頼む。桜子。薫くん。……うちに、来てくれないかね?」



ぎゅっ……と、無意識に、桜子は薫の腕にしがみついていた。


また、だ。

この感覚……。

望もうと望むまいと関係なく、導かれている。

抗えない奔流に巻き込まれていく……。




薫は、桜子の手に優しく手を添えた。

温もりが桜子を少し落ち着かせたのを確認してから、薫は要人と義人を交互に見て、ハッキリ言った。


「ありがとうございます。行きます。お世話になります。……でも、なんか、俺らが会社も家も乗っ取って、まいらを追い出したみたいに世間から思われそうで、心配です。」


「薫くん!」


桜子が悲鳴のように非難の声をあげた。



何でそんなこと、言っちゃうかなあ!?
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