いつも、雨
どぎまぎしている桜子をよそに、要人と義人は笑顔を見せた。


「なるほど。確かに、今の状況だと、そう見えないこともないな。……しかし、面白い男だな、君は。」


要人はそう言って、くっくっと笑った。



「ええ。本当に。……こんなことを言ったら失礼かもしれないけど、君になら、乗っ取られてもかまへんし。……冗談はさておき、お父さんも、僕も、薫くんのそーゆーところに期待してるから。」


まったく冗談などではなく、至極本気で義人は肯定した。



呆気にとられる桜子の手をとり、薫はうれしそうに言った。


「やったやった。これで、夏の着物も置けるで。桜子。いっぱい着てな。毎日着てくれてもいいで?」


「……夏の着物……。」


要人も義人も、美人の桜子が薄物の着物を身につけ、庭で夕涼みしている光景を思い浮かべると、勝手に頬がゆるんだ。




男3人の期待を一身に受け、桜子は渋々うなずいた。





……なるほど。

桜子さんの旦那の存在が、どのような化学反応を起こすのか、楽しみにしていたが、思わぬ効果がありそうだ。


いつもなら、わずかなことで綻びが生じる父子の関係なのに、互いの共通目的が一致しているせいか、和気藹々としている。



……希和子さんの存在が社長と亡き佐那子さんの仲を修復したように、この薫という若造を得ることで社長と義人さんの仲が氷解するのなら、こんなにありがたいご縁はない。


改めて、原は薫を、それから桜子を眺めた。



今時のスポーツマンタイプのイケメンと、楚々とした美女。

お似合いと言えばお似合いだが、今だからやっとお似合いと言えるようになったのであって……ほんの数年前までは、年の差が釣り合わない凸凹な取り合わせだった。


要人も原も、直接逢ってはいないものの、調査資料や、純喫茶マチネで桜子の育ての親である古城章が見せてくれた写真などで、2人の成長過程はずっと見知っていた。


思えば長い道のりだった。

四半世紀に及ぶ桜子への届けられなかった家族としての想いが、ようやく叶う。







「夏の着物なら、佐那子もかなり持っていたはずだ。かまわんから、どれでも着なさい。」

完全に目尻を下げて、要人が桜子に言った。



「……え。でも、おばあさまのお着物は、希和子さんやまいらちゃんがご相続したほうが……。私は、実家と、薫くんのおばあさまに言って、あるものを送ってもらいますわ。」

桜子は、けじめをつけたくて、敢えてそう断った。
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