いつも、雨
それでは……と、義人が提案した。


「じゃあ、ちょうどいいからさ、さっちゃん用に桐箪笥を1つ買おうか。希和だけじゃなく、まいらも一緒にお茶のお稽古始めちゃったからなあ……お母さんの着物だけじゃ、特に夏場は足りひんやろ。着物も帯も、欲しいだけ、好きなの選べばいいよ。」




……ちょうどいい?

なにが?

え?

意味わかんない。



返事をためらっている桜子に代わって、薫が答えた。


「ありがとうございます!でもうちにも着物いっぱいあるし、桜子の両親も買い揃えてくれてると思います。だから、箪笥を、置かせていただけるだけで、めっちゃ、うれしいです。な!桜子!」



こくこくこく、と桜子は何度もうなずいた。



でも義人は、綺麗な眉毛をひそめて、悲しそうな顔で訴えた。


「……何もしてやれなかった娘に、せめて、これくらいのこと、させてもらえないかな?……だいぶ遅れたけど……花嫁道具の一部だと思って。……あかん?」




……ずるい。

義人さん、ずるい。


そんな風に言われて……断れるわけない……。




桜子は途方に暮れて、薫を見つめた。



薫は肩をすくめて見せ、それから苦笑した。


「……まあ……せっかく、そうゆってくれとーねんし……買うてもろたら?」




ふっ……と、やりとりを見ていた要人が笑った。


「ありがとう。薫くん。……そう言えば、君は着物の着付けも上手いし、見る目もあるそうだね。桜子の着物を選んでやってくれ。……そうだな。ついでに、君の着物も揃えるといい。茶道を習うのだろ?羽織も袴も必要だろう。薫くんの箪笥と着物は、私が出そう。……それで、よかろう?」


要人は鷹揚にそう言って、最後は義人に確認した。


義人は笑顔を見せた。


「ありがとうございます。お父さん。よろしくお願いします。」


要人もまた笑顔で応えた。






……なんだ、この情況……。

嘘やろ……。

めっちゃ美しい父子関係やん。


これまでの2人からは想像できない光景に、芦沢はポカーンとした。




しかも怖い怖い先輩の原が、こっそりと涙を拭った!



マジか!

芦沢は、目を見開いて、原を凝視し続けて……後で、こってり怒られた。


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