いつも、雨
その夜、薫は桜子も一緒にまいらを訪ねて孝義の自宅へ行った。



「あ~!さっちゃんと薫くんだ~!どうしたの?」

まるで新妻のようにかわいい割烹着をつけて、まいらがぱたぱたと玄関に走って迎えに出てきた。



……マジで新婚の桜子より、新妻を満喫してやがる……。

今後、絶対、桜子にもエプロンとか割烹着とか付けてもらおう!


薫は変な決意を固めた。


「いや、一応いくつかの、報告。」


いつもより言葉の少ない薫の様子に、まいらは首を傾げた。


「なんやろ。……あ、もしかして、会社のアルバイト忙しいから、夏休みの間、家庭教師はお休み決定?全然かまへんよ~。」



脳天気なまいらに、薫はぴくりと眉を上げた。


「……かまへんて、お前……新婚ごっこにかまけて、宿題も、勉強も、手抜きせえへんけ?」


「ぎくっ。」

おどけてまいらは、擬音を言って見せた。



……まいらちゃん……いつもと全然違う。

孝義さんのそばにいられて、よっぽどうれしいんだろうなあ。


あまりのほほえましさに、桜子は薫を窘めた。


「薫くん。そんな言い方しちゃ、ダメ。……実際、会社帰りにココに寄るのはきついんだからさ。お言葉に甘えさせてもらおう?」


「……でも、サボる気満々ちゃう?休み明けにテストあるのに……。」


「自分でできるよね?まいらちゃん。」


「ぎくぎくぎくっ。」


再び擬音で頼りない返事をするまいらに、桜子は苦笑した。




そんなやりとりが聞こえたのか、奥から孝義がやって来た。

「……このくそ暑いのに、そんなとこで何してんねん。上がりぃや。……まいら、家庭教師探してるん?薫より阿呆かもしれんけど、適任者、いるで。頼んでやるわ。」


「こんばんは!お邪魔してます!」


慌てて頭を下げた桜子と対照的に、薫が好戦的な顔になった。


「こんばんは。猊下。適任者って、藤やん?あかんで。あいつ、大学のサッカー部めっちゃ忙しいで。1年生のうちは、無理無理。土曜日のお茶のお稽古かて、抜けるの大変なんやから。」



図星だったらしい。

孝義は鼻白んだ。




……やっぱり、孝義さん、まいらを藤やんの嫁候補に仕立てるつもりやな……。


薫は、何となくそう直感していた。
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