いつも、雨
「やったー!」


まいらは両手を挙げてから、ぴょんぴょん飛び跳ねて、桜子の両手を取った。


つられて、桜子も一緒に上下に揺れた。




「はいはい。まいら。もう一個、報告。俺ら、近々、お前ん家(ち)に引っ越すから。」


薫の言葉に、ぴたりとまいらの身体が止まった。



桜子が微妙な表情で、まいらの顔をのぞきこんだ。


「……私たち……本当に、お世話になっても、お邪魔じゃない?」



まいらは、驚いた顔になり、慌ててふるふると首を横に振った。


桜子は、目に見えて、ほっとした。




「ふーん。いよいよ、乗っ取りけ?……いや、冗談や。堪忍。……ごめん。」


軽口を叩いた孝義は、薫に睨まれ、桜子に泣かれそうになり、まいらに呆れたような目で見られて、慌てて否定した。




頭を掻く孝義を、まいらが窘めた。


「薫くんや私には何言ってもいいけど、さっちゃんをイジメちゃダメ。」


「……すまん。」



素直に謝る孝義に、薫と桜子は顔を見合わせた。



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翌朝、孝義は甘い香ばしい薫りで、幸せな気分で目覚めた。


……なんだ?

朝から、何を作ったんだ?


まさか、クッキーとかケーキを焼いて、朝ご飯にする気じゃないよな?



亡き母も、亡き妻も、お菓子作りの趣味はなかったので、孝義は慣れない状況をいぶかしみ、早々に起き出した。



軽く汗を流し、身支度を整える。

白い衣に黒紗の布袍を身に付けた夏の普段着の僧衣で、キッチンのまいらを見に行った。



「おはよう。何の匂いや?」



まいらは、ふりふりの白いエプロンを翻して振り返った。


「孝義くん!おはようございます。何って、普通に朝ご飯やで。パン焼いてん。簡単なバターロールやけど、焼きたてやし美味しい思う。一緒に食べよ。」



……パンを焼く?


焼くっていうのは……え?


パンを、焼いたのか?



「それって、買うてきたバターロールを、家で温め直したって意味じゃなくて……まさか、パンを焼いたのか?」


孝義の表現に、驚きが溢れていて……まいらは、楽しそうに笑った。 

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