いつも、雨
「……ありがとうございます。」


孝義は、よそ行きの声色と微笑で答えた。





「……舌打ちされた……。」


女が部屋を出てから、まいらがつぶやいた。



「ああ。気にするな。……って、言っても、気分悪いよな……。すまない。」


孝義に謝られ、まいらは慌てて手を振った。


「や。大丈夫大丈夫。全然平気。」




……ふと、気づいた。


母の希和子も、嫌がらせを受けて、表立って孝義を手伝うことを断念したと言っていた。


もしかして……こんなの、序の口なのかな。



……。

……ううん。

負けない。

孝義くんのそばにいるもん!



まいらは決意を新たに、背筋を伸ばした。


そして、再びやってきた舌打ち女に、飛びっきりの笑顔でお茶とお菓子のお礼を伝えた。


孝義は、目を細めて、そんなまいらを観ていた。



11時にまいらは、午前の勉強を終えて、独りで孝義の自宅へ戻った。


昼食の準備をして、お昼過ぎに戻ってきた孝義と一緒にランチタイムを過ごす。 

 

「冷麺、やっぱりうまいな。……これ……みょうが?」


「ぴんぽーん♪さっき、見つけてん。お庭の奥。みょうが一杯出てたから、摘んだよ。」


「へえ……。そうか……。気づかんかったな。……ほな、明日は、素麺がいい。みょうがと食べたい。かまへんけ?」


おねだりする子供のように、孝義の目がキラキラしている。

まいらの胸が、甘く疼く。


「もちろん!どんこしいたけあったし、おだしも作るね!」



……頼もしいな……。


新たな感動に多少戸惑いながら、孝義は頷いた。





午後も、13時から15時までの2時間を、まいらは孝義の執務室で過ごした。


「失礼します。」


午前中とは別の、モデル体型の女性が、お茶とお菓子を運んで来た。

雑誌の読モをしているそうだ。


女性達の間で申し送りはないらしく、この読モもまた、まいらを観て、驚きの表情になった。



「あ。もう失礼しますので、おかまいなく。」


まいらは、勉強セットを片付けながらそう断ったが、読モは、午前中の女性より、したたかだった。


「あら、すぐお持ちしますから!少し待ってくださいね。……猊下。どうぞ。」


さっさと孝義の机に、コーヒーと水菓子とおしぼりを出してしまった。



「ありがとうございます。でも、私より先に、彼女に出して差し上げてください。」


孝義がそう言っても

「あら、冷めてしまいますわ。お客様の分はすぐにお持ちいたします。こちらは、猊下。どうぞ。」

と、言い残して、スタスタと部屋を出て行って……それっきり、戻って来なかった。
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