いつも、雨
10分ほど待ってから、まいらは諦めて、孝義の部屋を出た。


すぐ先の廊下で、すっかり冷めたコーヒーと生ぬるく溶けた水菓子を持って、読モ女がまいらを睨んで立っていた。



……なるほど。

これも嫌がらせ、か。


めんどくさいなあ。



まいらは、会釈だけして通り過ぎようとした。




「せっかくお持ちいたしましたのに……。」


恨みがましくそう言われてしまった。



まいらは、仕方なく、殊勝な顔を作って頭を下げた。


「ごめんなさい。夕食の準備があるので、私はお先に失礼します。もったいないので、そちらは、お姉さんが召し上がってください。では、失礼します。」



背後でなにか聞きたくないようなことばが聞こえてきたが、まいらは無視して、足を早めた。 



ここはまるで、魑魅魍魎の伏魔殿だ。


母の希和子がどんな想いをしてきたのか……考えると、泣きそうになった。



いや。

孝義だって、そうだ。


今でこそ、みんなが孝義の機嫌を取る状況に落ち着いたが、妻が亡くなるまでは、四面楚歌だったと聞いている。



まいらは、こみあげる涙を振り払った。



泣いてる時間はない。


夕食のお買い物と準備にかからなきゃ。


まいらは、早速、叔母の由未に電話をかけて、献立の相談をした。

料理上手の由未は、何よりも心強い味方となった。





そんな風に、まいらの夏休みは、楽しいことばかりじゃないけれど、やりがいのある、充実したものになった。




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毎年8月に入るとすぐ、天花寺家では遠祖の法要がある。


年々参列する姻戚は減っているが、今年も恭匡は本家の当主として完璧に執り行った。


古刹の本堂での読経と説法のあと、何とか残存する千年前の供養塔前での法要。


真夏の暑い盛りでなければ、楽なのだが……こればかりは、日にちをずらすこともできない。



今年も、うだる暑さにしたたり落ちる汗を拭いながら、領子は参列した。


さすがに老齢の身には堪える。


最近よく医者から不整脈を指摘されるのだが、今も動悸が気になり、そっと胸を押さえた。

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