いつも、雨
「おばさま。お参りくださり、ありがとうございました。……お食事のあと、少しお話させていただきたいのですが……お時間よろしいですか?」


甥の恭匡にそう尋ねられ、領子は驚いた。


「ええ?よろしくてよ。……どうなさいましたの?……悪いお話ですか?」


恭匡からの誘いは、とてもうれしい。


だが、自分が恭匡から慕われてるとも、好かれてるとも思えない。



……残念ながら、いい話を、恭匡さんからお聞かせいただけるなんてこと……ないわよね……。



半ばあきらめて、苦笑する領子に、恭匡はにこりともせずに言った。


「残念ながら、よい話ではありません。」

「……そう……ですか……。」


領子は、小さくため息をついた。


同時に胸がズキンと痛んだ。






法要のあとの会食は、恭匡のお気に入りの料亭に移動した。


いつもなら領子も楽しみにしている極上の料理なのだが、恭匡の話が気になって気になって……食べた心地がしなかった……。



会がお開きになると、恭匡は、領子の夫の一夫に断って、領子を恭匡の車に誘った。


家族と離れ、独り、恭匡の車に乗り込む。



恭匡の妻の由未が、困ったような、微妙な表情で助手席に座っていた。



「とりあえず、車を出しますね。……車内ではお話しづらいですから、……ご足労ですが、我が家にいらしていただけますか?」


恭匡は、そう言いながらエンジンをかけた。


「わかりました。……何のお話かしら……。」



領子の問いを完全に無視して、恭匡は無言で車を走らせた。




恭匡の自宅につくと、由未が、気を利かせて進言した。

「ね。お抹茶、飲みたいんやけど……恭匡さんのたてたお抹茶がいいなあ。」


愛妻のおねだりに、恭匡はあっさり頷いた。


「残念ながら、これから炭を熾すわけにもいかないから、鉄瓶で盆点前になるけど。……おばさま、よろしいですか?」


「もちろんですわ。ありがとう。」


領子は、心底うれしくて、ニコニコしていた。



念願だった恭匡のたてたお茶をいただけることが、純粋にうれしかったのだが……領子の笑顔が恭匡を少し苛立たせた。



茶室に通された領子が、床の間の掛け軸や花を観ていると、程なく、由未がお菓子を持ってきた。


「急なことで、間に合わせですが……どうぞ。」


「まあ。お気遣いなく。お料理をいただいたばかりですので、お茶だけで充分でしたのに。……ありがとう。いただきます。」


品のよい涼しげな菓子器に、有名和菓子店の有名な柚子のお菓子が、堆く盛られている。


領子は、懐紙を取り出して、少しだけもらった。

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