いつも、雨
続いて、恭匡が入室してきた。


略式とは言え、お点前をするらしい。


領子はかしこまり、甥を見つめた。


恭匡のお点前は、とても優雅で美しい。

白魚のような指が、魔法のように巧みに動き、あっという間に香り高いお抹茶がたった。


「さあ。どうぞ。おばさま。……飲みながら、聞いてください。」

「ありがとう。お点前頂戴いたします。」


念願叶って、領子はようやく、甥のたてたお茶を飲むことができた。


「……先週から、妻の姪のまいらちゃんが、寺に泊まり込んで、お料理をしているそうで、毎日のように、妻に相談を寄越しています。」


お茶の余韻を楽しむ暇もなかった。


恭匡の言葉に、領子は首を傾げた。


「お寺、ですか?……お料理って……合宿かなにかかしら?」

「いえ。そうではなく、家出、と言って差し支えないですね。……まだ中学生だというのに、台所仕事をさせられているんですよ。」

「……家出……?」


聞いてない。

いつからですって?

先週?


だって、先週も、今週も……何度も、竹原と逢っているのに……そんな話、まったく聞いてませんわ。



領子の中に不安が広がる。



恭匡は、淡々と続けた。


「はい。かわいそうに、慣れない台所仕事で、手荒れしてないか、指を切ってないか……ご両親の、義人くんも、希和子ちゃんも、心配でしょうね。」


「……。」


領子は、黙って、恭匡を見つめた。


恭匡もまた、領子をじっと見て、それからようやく言いたかった事を言った。


「家出の理由は、おばさま、あなたと、竹原要人氏の密会現場に居合わせてしまい、竹原が家族よりおばさまを大切にしていると聞いてしまったからだそうです。……おばさま?」


恭匡の言葉が、領子の心臓を貫いた。


領子の胸に激痛が走った。


痛い……。

苦しい……。

圧迫感のような、押しつぶされているかのような……。


ダメだわ……。


痛い……。



領子は胸を押さえて、倒れた。



脂汗が流れ、目がかすみ、耳がぼわんとして聞こえにくい。



……わたくし……このまま、死んでしまうのかしら……。


竹原……。

もう……逢えないの……。


ごめんなさい。

まいらちゃん。


わたくしのせいで……傷ついたのね……。





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