いつも、雨
「何もしなくていいから!全部、救急隊員さんとお医者さんがやってくれるから!恭匡さんは、ただついててさしあげて。私より、恭匡さんに励まされるほうが、おばさまも嬉しいだろうし。……それとも、恭匡さん、橘さんの一夫さんとか、百合子さんに、どうしてこうなったか、ちゃんと説明できる?」


恭匡は、大真面目にぶんぶんと首を横に振った。


こんなことになるとは思ってもみなかった。


強く言い過ぎたのだろうか。



「……僕のせいだよね……僕が、強く言い過ぎた……」


恭匡は頭を抱えて、ぶつぶつつぶやき、泣き濡れた。



……まあ、確かに……意地悪だったけど……たぶん、おばさまご自身の呵責じゃないかなあ……。


そんな風に思ったが、由未は何も言わず、恭匡の背中を撫でてから、ぽんぽんと軽く叩いて、救急車に乗り込むよう促した。




恭匡は、救急隊員にも急かされて、渋々救急車に乗り込んだ。



救急車は、扉を閉めてからも、なかなか発車しない。

恭匡が泣いていて、要領を得ないのか。


領子のかかっている病院は、由未がちゃんと救急隊員に伝えたのだが。
  




由未は、大急ぎで百合子に電話をかけた。


『あら、ごきげんよう。先ほどは、ありがとうござ、』

「ごめん!おばさま、倒れたの!今、救急車来てる!」


おっとりした百合子の挨拶を遮って、由未は早口でまくし立てた。


百合子の耳を素通りした言葉は、すぐそばにいた夫の碧生がキャッチした。


「貸して。」


碧生は百合子からスマホを受け取り、スピーカーにして、話した。


「もしもし。俺。由未?うちのお義母さんが、そっちで倒れたって?脳?心臓?」


状況を正しく察知しながらも冷静そうな碧生の声に、由未も少し落ち着いた。


「あ、碧生くん。……たぶん、心臓。心筋梗塞。呼吸も心拍も不安定で、気絶しはって……。」


「……何があった?」


痛いところをつかれてしまった。



由未は、言葉を選んで、説明した。


「実は、姪のまいらが、うちのお父さんと橘のおばさまと一緒にいるところに居合わせてしまったらしくて、だいぶ傷ついたみたいで、家出してるの。それで、恭匡さんがおばさまにその話をしたら、おばさま、何もご存じなかったらしくて……胸を押さえて、うずくまって、倒れてしまわれて。」


恭匡が最初から領子を糾弾するつもりだったことは言わなかった。




スピーカーから流れる由未の言葉を聞いて、百合子はようやく事の重大さに気づいた。


「お母さま……。」

 
涙をぽろぽろこぼす百合子を、碧生がぎゅっと抱きしめた。

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