いつも、雨
「おじいちゃん……。」


『お父さん?大丈夫?お父さん?』



薫と由未とから呼ばれ、要人はすぐに自分を取り戻した。


そして、由未に尋ねた。


「私が馳せ参じることを、一夫くんや百合子は承知してるのか?」


『うん。あちらのほうから、お父さんに来てもらいたいって、言わはってんわ。……せやし、急いで、病院に来て。』


「……そうか。わかった。……由未、連絡をくれて、ありがとう。」



正直、まいらの一件を考えると、父には文句を言いたかったはずなのだが……巡り合わせで、逆に、父を不倫相手のもとへ行けと焚き付けて、御礼を言われてしまった。


多少複雑な気持ちを持て余さないでもないのだが……そんなことを言っている場合ではないだろう。



とにかく今は一刻を争うのだ。


……考えたくないけれど、もしこのまま、おばさまが亡くなってしまわれたら……恭匡さんは一生苦しみ続けてしまうだろう。


また、かつてのように心を閉ざしてしまうかもしれない。



由未は、ふるふると頭を振って、想像しうる最悪の状況を払いのけた。



私も行かなくっちゃ!


恭匡さんが、罪悪感で潰れてしまわないように、側で支えなきゃ! 





電話を切ると、由未は財布を握りしめてて外へ飛び出し、通り過ぎたタクシーを追いかけて捕まえた。








いっぽう要人は、とても由未のようにはいかなかった。


気持ちばかり急いて、身体が思うように動かない。


下肢に力が入らない。



見かねた薫が、要人に肩を貸した。


そして要人のデスクに据えられたら緊急用のインターホンで、秘書の原を呼び出した。


普段は用いられない呼び出し音に、原は、何らかの緊急事態が発生したことを察知して、社長室に走った。



もどかしげなノックを、薫の声が遮った。


「原さん!いいから入って!おじいちゃんのカノジョが倒れて意識不明なので、すぐ車、お願いします!おじいちゃん!……足元怖いし、俺に乗って。……よっ!」


入室した原は、薫の乱暴ながら的確な説明で状況を察知し、すぐに運転手に電話をかけた。



「あ、あと、義人さんと桜子にも連絡お願いします!おじいちゃん、ほな、行くで!」


薫はそれだけ言って、要人を背負ったまま、部屋を出て行った。



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