いつも、雨
役員専用エレベーターに乗り込むと、そっと要人を下ろした。


……さすがにこのまま一階のロビーまで進んで、背負われた社長を社員に見せるわけにはいかないだろう。



「おじいちゃん。玄関まで、歩ける?」


「……ああ。ありがとう。大丈夫だ。すまないな。」


要人もまた、何とかしゃっきりしようと、背筋を伸ばして、胸を張った。


薫がそれとなく要人の背中を支え、何とか体面を保ったまま車に乗ることができた。

 
遅れて駆け付けた原が助手席に乗り込んだ。


ミラー越しに見る要人の顔色が、青いというよりも、土気色で……原は背筋にぞっとするものを覚えた。


かける言葉が見つからない……。


薫が、要人の手や背中をずっとさすっていることだけが救いだった。



原にも、実の息子の義人にも、未だに遠慮のある桜子にもできない……なさぬ仲なのに薫だけができる、温かいいたわり。


……こんな時にナンだが……薫さんがいらしてくださってよかった……。


能力的には全く未知のままでありながらも、人柄と気質だけで、原は薫を頼もしく感じ始めていた。 






病院には、由未とほぼ同時に到着した。

百合子の夫の碧生がロビーで要人と由未を待っていた。


「碧生くん!おばさまは!?」


碧生は一旦、ぐっと口を結んでから、小さく呟いた。


「まだ……わからない……。」



それから、気を取り直したように顔を上げて、要人に頭を下げた。


「お忙しいのに、お呼び立てして、すみませんが……どうぞ、義母のそばに、いてあげてください。」



……返事がない。



顔を上げた碧生は、目を見開いたまま硬直している要人の顔を目にして驚いた。



顔色が悪いとか、動揺してるとか……そんなふつうの人間らしい感情が見えない。


まるで死者のようだ。


「おじいちゃん!ほら、行くで。……もう!まだカノジョが死んだと決まったわけじゃないねんから、おじいちゃんが先に死んでどうしよーねんな!」


あまりにも遠慮がない薫に、由未も碧生も言葉を失った。 


しかし要人は、薫の言葉と、力強い腕に操縦されて、ゾンビのように歩き出した。


慌てて、碧生が先導した。



……お父さん……お母さんのときには、こんな風にならなかったのに……。

やっぱりというか、何というか……おばさまは特別なのね……。 

不憫だわ……。

お母さんも……お父さんも……橘の一夫さんも……おばさまも……。


一番後ろを歩きながら、由未は滲む涙を何度も指で払った。
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