いつも、雨
領子は、まだ検査と処置の真っ最中だった。


廊下の長椅子に百合子と一夫が身を寄せ合って座り……恭匡は、要人に負けるとも劣らない酷い顔をして、ハンカチで涙を何度もぬぐっていた。



「社長……。」


一夫が要人を見て、立ち上がり、両手でガッと要人の右手を掴んだ。


そのままむせび泣く一夫の肩を、要人はポンポンと叩いた。



1人の女性を巡って、敵対してもおかしくない2人なのに、むしろ頼りにし合っているようだ。






「由未ちゃん……おばさま、死んじゃう……」

恭匡は、よよと泣きながら由未にしがみついた。


不吉なことを口にするなと注意したかったし、逆に、大丈夫と励ましてあげたかったけれど、どちらもこの場にはふさわしくない気がした。



由未は、子供をあやすように背中を撫でながら尋ねた。


「……救急車のなかで、おばさま、意識、戻られなかったの?一度も?」


「うん。救急隊員さんが声かけても、僕が呼んでも……ダメだった……。」




……脳に血が回らなくなってしまったのだろうか……。


助かっても、相当な後遺症が残ったりするのかもしれない。


いや、そもそも……本当に、助からない……?



ぶるっと震えが走った。





重苦しい空気は、看護師が出てくるまでずっと続いた。





「患者さま、落ち着かれました。意識も、少し戻られましたが、今夜はこのまま、集中治療室で処置させていただきます。ご家族のかた、面会されますなら、少しでしたら大丈夫ですので、もうしばらくお待ちください。……あ。先生が説明に来られるそうです。ご家族のかた……こちらへ。」


「行きましょ。社長。恭匡さん。」


有無をいわさぬ勢いで、一夫が、家族ではない2人に声をかけた。


しかし、要人は、安心感で膝から崩れ落ちた。


よかった……。

生きて、らっしゃる……。




「おじいちゃん。ほら。大丈夫?行くで!」


親戚ですらない薫も、要人を支える気満々で一緒についてゆくつもりらしい。



さすがに、由未は遠慮して、秘書の原のそばにいようとした……が……

「お願い!そばにいて!僕、無理!由未ちゃんいないと、無理!」

と、子供のように恭匡にしがみつかれ、渋々同行した。




大人数で小部屋に入り、2つしかない椅子には、ダメージが強すぎて立っていられない恭匡と要人が座った。


医師は、要人が領子の夫だと完全に勘違いしたまま、説明を始めた。
< 639 / 666 >

この作品をシェア

pagetop