いつも、雨
……しまった……。

とうとう、言わせてしまった……。


要人(かなと)は、咄嗟に窓の外をうかがった。

大奥さまは廊下に出て空を見上げていた。

ぽつりぽつりと、雨音が聞こえてきた。

どうやら雨が降り出したらしい。


……また絶妙のタイミングで降り出したな。

雨が、視界を鈍くしてくれるだろう。


「……領子(えりこ)さまが泣くから、天まで泣いてしもたわ。」

冗談のようにそう言ったら、領子はティッシュを目に当ててむせび泣いた。


両肩を震わせて、声を漏らさず静かに泣き続ける領子がかわいくて、いじらしくて……要人は、とても突き放せない。


ため息をついてから、諦めて、言った。

「今更でしょう。わかってるでしょう?……俺も、領子さまが好きですよ。……でも、だから、どうだって言うんですか?領子さまには橘の千歳さまがいらっしゃる。一生、言葉にしないほうが、楽やったやろうに。」


「好き……なのに……。」

力なく領子はつぶやいた。


その頬が赤く色づいた。

……言われてみれば、わかっていたのかもしれない。

確かに、言葉にしなくても、領子は全身で要人への想いをぶつけていたし、要人もまた領子の直接的過ぎる愛情表現はひらりひらりとかわしているようで、「お土産」や日常的な気遣いに惜しみなく愛情を注いでいた。


領子自身、要人への想いに身を焦がしてはいても……要人が自分に興味がないとは思わなかった。

恋人という形は取らなくても、愛されている実感があったのだろう。




「ええ、好きですよ。……好きや。……で?領子さまは、どうしたいって?」

要人はたたみかけるようにそう尋ねた。



領子はたじろいで、口をつぐんだ。



応えられない領子に、要人は肩をすくめた。

「子供じゃないんだから、自分の言葉には責任を持たないと。……これからも、折に触れて、こんなふうに、好きって気持ちをお互いに言い合えば満足ですか?それとも、結婚前の思い出作りに、俺とこっそりつきあいたいんですか?……それとも、婚約者もご両親の期待も、天花寺の家も捨てて、俺と駆け落ちでもしますか?」
< 64 / 666 >

この作品をシェア

pagetop