いつも、雨
こんなときでも、最愛の男を名字で呼び捨てにする領子を、一夫は不憫に想った。
好き合ってるモン同士が、こんな不自然な状況にあまんじてるの、おかしいやろ。
あかん。
……こんなん、あかん……。
一夫の同情を感じながらも、要人は、苦笑して、領子に向けて、うなずき、ほほえんで見せた。
その目に涙が滲み、頬を伝い流れた。
それだけで、充分だった。
領子の胸に温かいものが広がった。
何も言わず、要人は半歩退き、固まって棒立ちしていた恭匡に位置を譲った。
「……恭匡さま。どうぞ。」
恭匡は、跪かんばかりに屈み込んだ。
「おばさま。ごめんなさい。僕、僕……。」
顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくる恭匡に、領子は驚いた。
小さい頃だって、こんなに、素直に感情を表現してくれたこと、なかったわ……。
恭匡さん、本当に……由未さんのおかげで、幸せなのねえ。
領子は、ゆっくりゆっくり、声を出し、話した。
「ごめんなさい。恭匡さん。……あなたは、何も悪くありませんわ。……むしろ、わたくしを叱ってくださって……さすが、天花寺本家の家長と、うれしく思いました。……わたくしが悪いのです。」
ほうっと息をついてから、領子は要人を見て、再び話した。
「……あの……竹原……ごめんなさい。わたくし、何も存じ上げてなくて……まいらちゃんのこと……。」
領子の瞳に涙が溢れた。
要人は、人目をはばからず、領子を抱きしめたい衝動にかられた。
自制心をフル稼働して、要人は領子にほほえみかけた。
「……領子さまのせいではありません。どうか、お気になさらず、今は、ゆっくりお休みください。」
「いや、まいらが傷ついたんは、百パーセント、2人の不倫のせいやけどな。」
ケロッと薫が真実を述べた。
誰も何も言えなかった。
重苦しい空気を察知してか知らずか、看護師が退去を急かした。
集中治療室を出てすぐ、白衣や帽子を脱ぐより前に、一夫が要人に頭を下げた。
「社長。今後のとこは、改めて相談させていただきますが……領ちゃんのこと、お願いします。」