いつも、雨
要人は、返答に困ってしまった。


もちろん、今さら領子と別れるつもりはない。


できることなら、24時間365日、領子のそばにいたい。



しかし、領子がそれを許してくれるだろうか……。




「……すべて、領子さまのお心のままに。」


安請け合いすることもできず、要人はそう答えた。



「や。それじゃあかんて。おじいちゃん。カノジョさん、頑固やてわかってるやん。……強引に、状況整えてしまわんと。」


わかったような口を利く薫に、一夫も同意した。


「わしもそう思います。……せやし、わしは、領ちゃんと離婚しよう思います。」



「お義父さん!」

「そんな!」

百合子と碧生が抗議の声をあげた。



「しいっ。お静かに。」


看護師さんに注意され、それ以上、何も話せなくなってしまった。




結局、これからのことを決められないまま、一行は病院を後にした。





車の中で、要人は薫に尋ねた。

「……君なら、どうする?……もし、桜子が、不治の病に侵されたら……。」


薫は気の毒そうに答えた。

「いや、参考になりよらんでしょ。おじいちゃんと俺らとでは、年齢も、社会的責任も、家庭環境も違うし……何より、俺と桜子は夫婦やし。……でもまあ余命期間によるかなあ。4年保たへん言われたら、大学休学して、須磨で2人で療養するかな。10年ぐらい生きられそうなら、無理せん程度に仕事もしながら、今の生活を続ける気がします。……せやし、俺がおじいちゃんなら、迷わず、2人で隠居やな。」


「……隠居……。」


要人は、不思議な言葉を聞いた気がした。


自分の人生に、縁のない言葉だと思っていた。

死ぬまで会社を大きくするために、働き続けるはずだった。


……しかし……。


自分が何のために、誰のために生きてきたか、考えるまでもない。


領子さまを、お支えしたい……。




要人は、決意した。


「……すまない。薫くん。……もっと、君と、いろんな話をして、……君を、私の会社の後継者にしたいと思っていたのだが……その時間がなくなってしまったようだな。」



薫は、思わず肩をすくめた。

「おじいちゃん。あかんて。俺じゃなくて、桜子やろ?形だけでも、跡継ぎは身内にしとかんと……俺、肩身が狭いやん。」


ふっ、と要人がほほえんだ。


「……そうか。まあ、どっちでもいい。2人で頑張ってくれ。……君らの教育は、義人に任せよう。適任だろう?」


最後は助手席の秘書に向けての確認だった。


原は、渋々うなずいた。


< 642 / 666 >

この作品をシェア

pagetop