いつも、雨
お盆が過ぎて、いよいよ領子の退院が明日に迫った夜、孝義に連れられてまいらがやってきた。


まいらは、苦虫を噛み潰したような顔で、無言で頭を下げたまま、ムスッとしていた。



「やあ。孝義くん。久しぶりだね。……長らく、孫を預かってくれて……本当に、お世話になりました。ありがとう。……今日も、まいらを、ここに、連れて来てくれて、ありがとう。」


要人はまず孝義に感謝を伝えたあと、孫のまいらに謝った。


「まいら。すまなかった。」


言葉は簡潔だが、要人は深々と頭を下げた。



「まいらちゃん。ごめんなさい。」


領子もまた、シーツにつきそうなぐらいに頭を下げた。




まいらは、困ってしまった。


「やめて。そういうの。……もう、いいから。……身体に障るといけないから。」



2人が頭を上げるのを待って、まいらはボソボソと言った。


「いっぱい聞きたいこともあったし、文句も言いたかったんやけど……もう、本当に、いい。」


精一杯の言葉だった。


いまさら、何も言えるわけがない。


こんなにも、イイ表情の祖父を観たことがない。



おじいちゃんなのに……私のおじいちゃんのはずなのに、色気だだ漏れだ。



まるで他人のように感じて、まいらは、多少ねじくれた。



そして、ついつい意地悪を言ってしまった。


「……てゆーか、私が反対しても、無駄やろ?……もし、それでも、私が、許さないってゆーたら……おじいちゃん、おばさまを諦められるの?」



「こら!まいら!」


孝義が慌てて窘めようとしたが、まいらの口から飛び出した言葉はもう戻らない。 


強がって、まいらの口がへの字に結ばれた。



要人は領子と顔を見合わせ、それから、ふっと笑った。


余裕綽々な態度に、まいらは苛立ちを募らせた。



しかし、要人の返答は、まいらの想像もしなかったものだった。


「……うん。……領子さまと相談したのだが……そのときは、2人で死ぬことにするよ。」


「はあっ!?」


「心中……ですか……。」


さすがに驚いた。


しかも、冗談ではないらしい。


2人とも、いたってまじめだ。




要人は、ほほえみを浮かべたまま言った。

「僧侶の孝義くんには、怒られるかもしれないが……もはや、私たちは、離れるつもりはないんだ。でも、家族の反対を押し切って駆け落ちすることもできない。……生きるも死ぬも、2人なら、それでいいという結論に至ったわけだ。」

< 648 / 666 >

この作品をシェア

pagetop