いつも、雨
翌日、領子は退院した。


これまで以上に、大事に大事に、要人は領子をエスコートした。


「……わたくし、普通に歩けるわよ?」


領子が苦笑しても、要人は真面目に反論した。


「足腰の筋力は、領子さまの思ってらっしゃる以上に、弱ってはりますから。万一、転ばれて、骨折でもなさったら……。」



心不全だと、骨粗しょう症になりやすく、骨折しやすくなる。

若いときと違って、年老いてからの骨折は、寝た切りになってしまう可能性も高い。


それに、領子は隠しているようだが……左手に力があまり入らない時があるらしい。


一時的なものか、慢性的なものか……いずれにしても、これからの生活で、要人は領子の杖とも、左手ともなる必要がある。


「竹原は、昔から、心配症だったわね……。」


しみじみそうつぶやいて、領子はそっと要人にしなだれかかった。


要人は、しっかりと領子の身体を支えるように腕を回した。






病院の受付近くの長椅子に、一夫が、百合子と碧生と共に座っていた。


要人と領子が寄り添って歩いてくるのを見て、一夫は立ち上がった。


「……老々介護っちゅうやつですな。」

揶揄する声も、笑顔も、優しくあたたかかった。


「一夫さん……。」

領子は、思わず胸を押さえた。


不整脈かどうかはわからないが、やけに強く鼓動を感じた。



「ああ、領(えり)ちゃん。そんな顔せんでもええで。……曖昧にせんと、最後にな、ちゃんと、報告しよう思て。……まあ、座り。」


一夫は優しい声でそう言って、自分も座った。


領子は言われるがまま、一夫の前の椅子に座った。


すぐ傍らに、要人は立った。


「……はい、これ。全部記入は終わってるから、あとは、領ちゃんが書いてくれたら、提出するし。……書いて。」


一夫は、封筒から離婚届を出し、ペンと共に領子に渡した。


領子は固まってしまった。




「なんや?今さら、社長より、わしがええとは、嘘でも言わんやろ?」


一夫の冗談が、領子の胸に突き刺さる。


「お義父さん。ダメですよ。お義母さん、困ってらっしゃるじゃないですか。……ちゃんと、これからのこととか、お話しないと。」


娘婿の碧生にたしなめられて、一夫は頭をかいた。
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