いつも、雨
傘をさしていても、アスファルトの跳ね返りで足元はずぶ濡れになってしまった。

それでも領子の肩を濡らさないように、要人は傘を差し掛ける。

自分は顔まで濡れてしまっても。



「……本当に。わたくしたち、2人とも、頑固ですわね。」


しみじみとつぶやいた領子に、要人は微笑みかけた。


「頑固でしたね、本当に。……でも、あなたを愛し続けることが、俺の人生の全てです。」

「あら、それ……。」


先月、要人がプロポーズと共にくれたダイヤの指輪に刻み込まれたフランス語と同じ意味だということに気づいた。



「ふふ。……竹原は、いつも、有言実行ね。感心するぐらい。嘘がないわ。」


領子にほめられ、要人は多少の罪悪感を飲み込んだ。


……馬鹿がつくほど誠実なのは、領子に対してだけだ。


他のことには、……家族だろうと、血縁だろうと……信頼に足る妻にさえ、嘘ばかりで、不誠実だった。


いや。

だからこそ、領子は特別なのだろう。


都合の悪いことも、領子にはちゃんと申告しなければならない……それは要人に残ったたった一つの良心だった。


こうして家族と離れ、会社を去り、2人きりになれた今、ようやく、要人はしがらみを捨て、なりたかった自分……おそらくそれこそが本来の自分に戻れる。




「タクシー乗り場は……あちらですね。列びますか。」

「はい。」


迎えの車は、断った。

義人や原の気持ちはうれしいが、全てを投げ出してきたのだ。

都合よく、専属の運転手を使うつもりは、もうない。


タクシー乗り場に並び、4台めの車にようやく乗れた。

行き先を告げて、後部座席に深く腰掛ける。


そっと領子が、要人の腕に頭を預けた。



「……疲れましたか?」


「ええ。少し。……眠いわ……。」


「では、お休みください。着いたら起こしてさしあげますよ。」


「……。」



返事の代わりに、すーすーとかわいい寝息が聞こえてきた。


……まるで電池が切れたようだな。


それだけ体力が落ちているのだろう。


あるいは、心臓の働きが不十分で、血が足りないのだろうか……。


おいたわしい……。



要人は、こみ上げる涙を落とさないよう、そっと目を閉じた。




車が京都市街を出た頃、雨が上がった。

南へ西へと走り、たどり着いたのは天王山の中腹。



領子は、突然、異世界に来たような錯覚を覚えた。


雨に濡れた濃い緑の木漏れ日がきらきらと輝いている。


というより、緑しか見えない!
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