いつも、雨
「ここ、どこですの?静かな山奥のようですが……亀岡?滋賀県?」


タクシーが去ってから、領子は要人に尋ねた。


「京都府ですよ。大山崎。天王山です。すぐそばに、サントリーのウィスキー工場があります。」


「ああ。わかりました。大山崎山荘の近くね。素敵。」



領子の顔が輝いたのを見て、要人は安堵した。


家は、どこでもいいというわけにはいかなかった。


領子が発作を起こした時、手遅れにならないため、交通の便の良いところでなくてはならない。


隣近所に気兼ねなく過ごせる、別荘地のような環境がいい。


そして、互いの家族が訪れやすいというのも大切な条件だった。




「どうぞ。……希和子が、住める環境に整えてくれました。」


「まあ。ありがとう。……門からお家が、見えないわ。……広いのね。」


「敷地内を散歩するだけで充分な運動ができそうですね。家は普通ですよ。豪奢な白い洋館でも、寝殿造りでもありません。こじんまりした、中古物件です。」


「……中古……。」


意外な気がした。


……急いでいたから、新築は探せなかったのかしら。


緑の木々の向こうにやっと見えてきた建物は、一見、質素な山荘っぽいのだが……。


「雨樋が銅だわ。」


要人は、うなずいた。



「そうですね。……何の特徴もない小さな家ですが、総ヒノキ造りだそうですよ。」


「……もしかして……一夫さんが建てられたお家ですの?」


「ほう。よくわかりましたね。そうです。独立される前に、ご実家でお仕事されていた時に建てたそうです。……今回も急遽バリアフリーに改築してくださったとか。」


「まあ……。」


領子は思わず胸を押さえた。


「……本当に……イイ男ですね……一夫くんは。」


青緑の樋を見上げて、しみじみと要人はつぶやいた。



領子は、要人の手をそっと握った。


「ええ。正直、竹原より、ずっとイイ男よ。一夫さんは一度たりとも浮気しませんでしたからね。……そんな一夫さんを裏切ってきたのよ、わたくし。……なのに、こんな……」


最後まで言えなかった。


領子は、ぽろぽろと涙を流した。


要人は黙って領子を抱きしめた。



……罪悪感は、一生、消えないだろう。


どんなに言葉を尽くしても、どんなに幸せでも……。



領子は一夫に、要人は佐那子に……死ぬまで心の中で謝り続けることだろう。



それでも、どうしても、……諦めきれなかった……。


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