いつも、雨
要人は、恐る恐る聞いてみた。

「恭風さまとご一緒されてはいかがですか?」


敢えて亡き人の名を出してみた。



領子はすこしむくれた。


「ダメよ。お兄様、お稽古ごとでお忙しいんですもの。……ね、お兄ちゃん、連れてって。」



……はは……。

マジか……。


要人は、ようやく事態を察した。


不思議なことに、絶望感はなかった。



……とりあえず、要人のことを要人と認識していることが、救いだった。



「領子さま。では、お昼寝の後で、ご一緒に参りましょう。」


要人はそう言って、領子をソファに横たわらせた。

毛足の長い毛布をかけてやった。


「さ、おやすみなさい。」


暗示にかけるように、有無をいわさず目を閉じさせた。


領子は、再び眠りに落ちた。





……認知症……が、始まったのか?


それとも、一時的な記憶障害か?



頭を抱えてみたものの……すぐに要人は開き直った。


それも、想定内だったはずだ。

落ち着け。

大丈夫だ。


たとえ、俺の存在そのものを領子さまがお忘れになったとしても、介護人としてそばにいると決めたじゃないか。


今さら、うろたえるな。


とりあえずは、医師の診断を受けて……、一夫くんたちにも連絡すべきか。



要人は、領子の主治医に電話をかけ、診察の予約を入れた。







「……どうなさったの?竹原。……まだ、次の外来予約は、先じゃなくって?」


電話を切った直後に、領子が起きあがって、そう尋ねた。


……戻ってる?


一時的な記憶障害だったのか?



「領子さま。お昼寝するお約束ですよ。」


「……あら……そうでしたか?……でも、今は眠くないわ。」


領子は、毛布をたたんでかたわらに置いた。



……いつもの領子さまだ……。


安堵の息をつき、要人は領子のすぐそばに座った。



そしてそのまま強く抱きしめた。








最初のうちは、忘れた頃、突然、領子は少女に戻っていた。


その都度、お昼寝させると、目覚めた時にはいつもの領子が帰ってきた。


頻度が目に見えて増えてきて、ようやく病名がついた。



心不全による記憶障害。

……アルツハイマーとはまた違うらしい……。

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