いつも、雨
要人は、少女の領子と会話を重ねてゆくうちに、幼稚園から中学生になる頃までの領子が出現していることを確認することができた。


……考えてみれば、その頃の領子を知る者は、今となっては要人以外みな鬼籍だ。


少女の領子にしてみれば、この世に俺とただ2人きり……ということか。



その後に逢瀬を重ねた濃密な時間も、思い出も、いずれは失ってしまうのだろう。


医師には、画期的な治療を施すことはできない。


ただ少しでも進行を遅らせるために、規則正しい生活を意識するとともに、在宅酸素療法を取り入れた。



小さな領子は、カニューラという鼻のチューブを付けることを嫌がって、取ってしまうこともあったが、自我の戻った時には自ら装着して、要人を安心させた。







ゆっくりゆっくりと時間は流れたが、それでも過ぎ去ってみれば、あっという間の半年だった。





2月半ばの雪のちらつく寒い真夜中、領子は突然、発作を起こした。


強い圧迫感と痛みに声もあげられず……傍らに眠る要人に伝える手段もない。


ようやく体勢を変えてうずくまったとき、振動で要人が目覚めた。



「領子さま!?痛むのですか!?すぐ救急車を呼びますから!」


慌てて要人は枕元の電話の子機に手を伸ばす。


と、領子が何を思ったか、要人から子機を奪い取り、放り投げた。


子機は、窓ガラスに当たり、床に落ちた。


衝撃でバッテリーが飛び出した。



「領子さま!?」


驚く要人の胸に、領子はしがみついた。



「ここで!このまま!死なせてくださいっ!」



音量は小さくても、心を振り絞るような叫び声だった。



「領子さま……。」


愕然とした。



涙でぐちゃぐちゃにして、領子は訴えた。


「病院は嫌っ!お願い。ここで……竹原と……」



かはっ!……と、変な呼気がして、領子は気を失ってしまった。




要人は、一瞬途方に暮れた。


領子の希望は、以前から聞いていた。


もう病院には戻りたくない。

今度、発作が起きても、救急車は呼ばないでほしい……と。


要人に抱きしめられて死にたい。


それが最後の望みだと、繰り返し言っていた。



気持ちはわかるような気がしていたので、要人は承諾した……つもりだった。


しかし、今、いざとなると、救急車を呼ばないということは、苦しむ領子を見殺しにするということだ。
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