いつも、雨
愛する人が死ぬのを、ただ見ていろということか。


……狂いそうだ……。


領子は既に呼吸をしていない。


まだ温もりがあるのに……顔の色は、青いというより……灰色……。


脈も、止まったようだ。



……本当に、最後まで、ひどい人だ。



要人は、領子の亡骸を抱きしめたまま……声をあげて泣いた。



窓の外にはぼた雪が降っていた。





朝になるのを待って、要人は自宅に電話をかけた。



「はい。竹原でございます。」


いつも要人を苛つかせた、嫌味な程にお行儀のいい声で義人が電話に出た。


……不思議と今朝は、要人の心を優しく包み込んでくれるような気がした。



「朝からすまない。私だ。」


かすれた父の声に、義人は事態を正しく察知した。



「お父さん?……大丈夫ですか?……おばさまは……。」


「亡くなられた。午前2時14分だ。……すまないが、かかりつけ医を呼んで、死亡診断書を依頼してくれ。それから、一夫くんや百合子にも知らせてさしあげてほしい。」


要人は淡々と要件を告げて、電話を切ろうとした。



「お父さん!すぐ行きますから!待っててください!」


慌てて、義人はそう頼んだ。



要人の返答は、穏やかだった。


「ありがとう。急がなくていい。……後のことは、頼んだよ。」




静かに切られた電話を見つめて、義人は胸がざわついた。


最愛の女性を失って気落ちしているのだろうとは思うが……。




「おじいちゃん、どうかしたの?」


自分と孝義の弁当を作るために早起きしていたまいらが、父の声の緊迫感に驚いてキッチンから顔を出した。



「橘のおばさまが亡くなられたそうだ。」


義人は、自分のスマホで電話番号を探しながら、そう答えた。



「……まいら、希和子とさっちゃんたち、起こして。電話したら、すぐ、お父さんのところに行くから。」


まずは一夫に知らせるべきだろう。

それから、恭匡さま。

……さすがに、恭匡は、まだ起きてらっしゃらないかな。




まいらは、なぜか身動きひとつせず、しばらく呆然と立ちすくんでいた。



「どした?」


気になって義人がまいらに声をかけた。



まいらは、天を仰いで嘆息した。


「……おじいちゃん、もう……。」



娘の頬に流れる涙の筋が、義人の鼓動を早めた。



「まいら?……何か……わかるのか?……まさか……」


声が震えた。


聞くまでもなかった。
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