いつも、雨
「……生前、お父様に依頼されていましたので。死因は、急性心不全で作成してあります。」


到着前に、医師は既に出来上がった書類を義人に託した。


「そうでしたか。お世話になりました。」




何もかも、計画通りというわけか。

最期まで鮮やか過ぎだろう。



義人は、改めて父へのコンプレックスに苦笑いした。


  



別荘のドアの鍵は開いていた。


かすかに、音楽が聞こえる……。



あれは……ああ、そうだ。

テレマン。


領子の最初の嫁ぎ先の小姑が、プロのチェンバリニストだったことを義人は思い出した。

 

寝室のドアを恐る恐る開けてみた。


さほど大きくない普通のダブルベッドに、2人はお行儀よく横たわっていた。



「ご丁寧に、毛布まで掛けて……。」

「眠っていらっしゃるようですね。」


医師も義人も、苦笑を禁じ得なかった。



領子は心臓発作で苦しんだはずなのに、安心しきったような……ほほえんでいるかのようだ。


そして要人は、服毒自殺だろう……横を向いた口元が少し開き、よく見るとシーツに血が染み込んでいる。


なのに、こちらも満足そうにほほえんでいるように見える。





 

「……お幸せな最期だったようですね。」


医師がしんみりつぶやいた。



「ありがとうございました。お世話になりました。」


実際、どの程度の世話になったのか、義人にはよくわからない。


単に死亡診断書の偽造を依頼しただけなのか、あるいは服毒した何らかの薬も都合したのか……。



どちらにしても犯罪だ。


何も聞かないほうがよかろう。




医師の勧めで、口元とシーツの血をオキシドールで落としてから、一旦、別荘を出た。
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