君の声が、僕を呼ぶまで
保健室に、お客さんが来た。

具合が悪いワケではない。

…私を訪ねて。


「おはよう、相川さん」

この前、声をかけてくれた、同じクラスの、植木桜子さん。

動揺している私を見て、彼女は、柔らかく笑った。

「小春って呼んでもいい?」

そんなふうに聞いてもらえるのは、何年ぶりだろう。

「ダメ?」

…な、ワケがない。


本当は、まだ少しだけ怖い。

でも、私は私の世界を取り返すと決めた。

私の世界を変える。

…だから、小さく頷いた。


それを確認した植木さんも、安心したような顔をする。

「私の事も桜子って呼んでね、いつか」

そんなふうに言ってもらえるのは、何年ぶりだろう。


さくら…こ、ちゃん。

口に出して呼べたら、この人は、もっと笑ってくれるんだろうか。
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