絶望の空の色

「随分、泣かされましたよ」

思わずこぼしたのは本音。
そして今度は恭平くんが苦笑をこぼした。

「少しやつれたようにも見えたけど……、今も仕事ばかりしてるのか?」
「仕事ですから」
「あのときはごめんな」
「……いえ、あの時は。うん、あの時は、あれが正しい選択だったんですよ。“今”の私たちになるためには」

私は心からの笑顔を向けると、恭平くんが微笑んだ。
そして私の左手に視線を向けて言葉を紡ぐ。

「仕事が大事なのはわかるけど、相手がいるなら自分のことももっと大切にしろよ。同じように、相手だってお前のことが大切なんだから」

彼があの時、きっと本当はその言葉を言いたかったのだろう。
ふたりの距離が近すぎて言えなかった言葉。
だから今「ごめんな」と言ったのだろう。
そういう優しさが、好きだった。
好きだったのに、そういう優しさに気付けなくて、自分ばかりが傷ついているみたいに感じていた。
その言葉が言えなかった恭平くんだってきっと傷ついていたのにね。

「ありがとう。あの時のことがあったから、私は私を大切にできてるんだよ」
「そうか」

向けてくれた笑顔はとても優しくて、心が穏やかになる。
ふわりと風が私の髪をさらって、それがこの時間の終わりを告げるようで。
お互いにそんな空気を感じとり、緩やかに時間が動き出す。

「昔言ってたよな。家族で、笑顔がいっぱいの食卓にしたい、って。多分今でも変わってないんだろう?いつか叶えろよ、その夢を」
「ありがとうございます。……日野さまも、どうぞ末長くお幸せに」
「うん、ありがとう。またふたりでお礼に来るよ」

そう言って彼は愛する人の元へと帰っていった。



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